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宮崎駿監督 引退会見詳報

時代に追い抜かれた

―最後の長編となる「風立ちぬ」の構想に東日本大震災や原発事故は影響を与えたのでしょうか?

 震災や原発事故に影響されていない。(構想は)初めからありました。時代に追い付かれ、追い抜かれたのだと思います。

―「追い抜かれた」ことは引退と関係あるのか?

 ありません。

―長編アニメの声優は初めての庵野秀明監督やスティーブン・アルパートさんを起用した理由は。

 毎日テレビを見ているとか、日本の映画をいっぱい見ている人は気付かないと思いますが、僕は映画もテレビも見ていません。「風立ちぬ」をやっている間中、記憶の中によみがえってきたのは、昭和30年以前のモノクロ時代の日本映画。暗い電球の下、生きるのに大変な思いをしている男女ばかり見ていた記憶がよみがえりました。

 今のタレントさんたちのしゃべり方を聞くと、(当時との)ギャップにがく然とします。何という存在感のなさだろうと…。(庵野とアルパートの)二人は存在感だけですが、その方が映画にぴったり。(ヒロインの)菜穂子をやってくださった方(女優の瀧本美織)は、みるみる菜穂子になっていきました。

 今回、それぞれのポイントの責任者たちのおかげで、円満な気持ちで(仕事を)終えました。(以前は)もっととんがって、ギスギスした気持ちを残して終わったものだけど。20年ぶり、30年ぶりに集まったスタッフが何人も参加してくれたし、映画を作る体験としてはまれな良い体験で終われたので、運が良かったです。

 ところで、「風立ちぬ」の後、どう生きるかは、まさに今の日本の問題です。この前、ある青年が訪ねてきて、「ラストシーンの丘の先に何が待っているかと考えると、本当に恐ろしい思いで見た」と言うので、びっくりした。「今日の映画」として受け止めてくれたんです。僕らはそういうところにいるんだということだけは、よく分かったのだと思います。

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