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上田誠也東大名誉教授に聞く

予知研究は前兆現象探求

 甚大な被害を出した東日本大震災の後、最大でマグニチュード(M)9クラスとされる南海トラフ沿いの巨大地震が注目を集めている。津波の高さは最大34メートルで、死者32万人、被害総額220兆円という被害が推計されている。しかし、内閣府の調査部会(座長・山岡耕春名古屋大教授)は2013年5月の報告書で「現在の科学的見地からは地震の規模や発生時期を高い確度で予測することは困難」との見解を公表。日本地震学会も12年10月に発表した行動計画に「地震予知は現状では非常に困難」と明記した。地震学は「最悪の事態」を予知できないという結論に国民は困惑せざるを得ない。

 地球物理学者で日本学士院会員の上田誠也東大名誉教授は日本におけるプレートテクトニクス研究の第一人者。地震学とは別の分野での科学的研究によって地震の短期予知は可能とする考えから、「地震予知学」を提唱している。地震予知を可能にするため何が必要なのかを聞いた。(聞き手 時事通信社編集局長 安達功、インタビューは2013年8月27日)

 

安達:「地震予知-現状とその推進計画」(ブループリント)に基づいて1965年にスタートした日本の地震予知計画では観測網も充実し、研究も進歩したと思います。しかし、その結果「予知は困難」と言わざるを得なくなった地震学とはどういう学問なのでしょうか。

上田:地震計で地震の揺れ、つまり地震波を観測し、その結果に基づいて地球や地震のことを研究するのが地震学(seismology)で、大きくは2つに分かれています。1つは地震波を媒介として地球の内部構造(地殻・マントル)を調べる学問。これは地震学の出発点で、19世紀に主に欧州で始まりました。もう1つは、地震波によって地震そのものを調べるのもので、英語では「earthquake seismology」と言います。欧州で始まった地震学がある程度進歩した20世紀になって、地震が起こる地域で盛んになりました。米カリフォルニア、日本、イタリア、ロシアの一部地域などです。
 実は、地震学は地震予知にとって直接的にはあまり役に立ちません。地震予知は短期予知でなければ意味がないからです。1週間とか1月以内とかですね。「何年後に何%」というのは地震予知と言うべきではないと思います。それが国民一般の常識ではないでしょうか。自分の生命を救うには1週間ぐらい以内に言ってくれないと困るわけです。
 地震の発生を予知するためには、前兆とされる現象を研究し、とらえなければなりません。地震の前兆現象を研究するのが短期予知なのです。ところが、前兆現象とは地震の前に起こる現象なのですから、その大多数は地震そのものではないんです。地震計をいっぱい並べて地震のメカニズムなどを明らかにするのは大切な研究ですが、地震の予知にはあまり役に立たないのです。
 5月の報告書の見解は、まさにそのことを言っているのです。地震そのものを研究対象とする地震学では、本来の意味での地震予知、つまり短期予知はできない。ところが、65年に始まった地震予知計画では、地震学しかやってきませんでした。多くの地震計を設置して地震観測をさかんにやり、地震というものがだんだん分かってくれば地震予知ができるかもしれないという建前だったのですね。
 しかし、地震の前兆現象はほとんどが地震そのものではないのですから、地震学はベストの方法ではなかったわけです。ほかのことをやらなくてはなりません。当事者はそのことを認識していたにもかかわらず、地震計測以外のことをほとんどしなかった。

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