氷の季節から解放された褐色の大地はどこまでも続き、点在する沼では白鳥のつがいが羽を広げる。
2012年6月に訪れた米アラスカ州西端、ベーリング海にほど近いニュートック。約370人の先住民族ユピックが暮らすこの村は「消滅」に向かっている。地球温暖化の影響で土壌浸食と地盤沈下が進行し、残された道は集団移転だけ。
北米初の環境難民とされる村民だが、それでも民族の伝統の灯を守ろうと模索する姿は、東日本大震災の被災者の背中と重なって見えた。
◇消えゆく村
洗剤や缶詰を積み下ろした軽飛行機が遠ざかると、ツンドラを吹き抜ける風の音だけが残った。
「数年で住めなくなるだろう」。村で生まれ育ったトム・ジョンさん(58)はつぶやいた。気温上昇が地下の永久凍土を溶かし、脇を流れる川は強度を失った大地を容赦なく削る。岸辺は年平均22メートルも浸食され、地盤沈下も止まらない。
村のほとんどはぬかるみに覆われ、木板をつなぎ合わせた幅1.5メートルほどの道が縦横に走る。ベニヤ板を張り付けた民家は土台から傾き、屋根がゆがんでいる。
州政府によると、同様の問題は約180カ所の先住民族の村でみられ、洪水の被害が深刻化。「15年以内に消滅する」とされるニュートックやシシュマレフなど12カ所が移転を検討している。
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