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【特集】水循環変動観測衛星「しずく」

水の動きで環境異変をチェック

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2012年5月18日、鹿児島県の種子島宇宙センターからH-2Aロケットで水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W1)を打ち上げた。

 「水循環変動観測」というのは聞き慣れない言葉だが、海洋や地表、大気中に存在する水分子の動向を長期的にモニターすることを意味する。具体的な調査対象は、地表の降水量、大気中の水蒸気量、海洋上の風速や水温、土壌に含まれる水分量、積雪の深さなどで、これらを全地球的に調べてデータを蓄積し、そこから気候変動の兆しを発見するというスケールの大きいプロジェクトだ。

 地球全体のデータを集めるため、「しずく」は赤道上の静止軌道ではなく、高度が約700キロという低軌道(静止軌道の高度はおよそ3万6000キロ)を早いスピードで周回する。軌道は地球を南北に回るコースだが、地軸に対して傾斜をつけて設定されているため、周回ごとにコースが横にずれていき、およそ2日でほぼ全地表面のデータを集めることができる。

 わたしたちの日常生活に直結する役目を果たしている通信衛星や気象衛星と違い、「しずく」は細かいデータを大量に集め、長期の研究プロジェクトに提供するという地味な任務を割り当てられている。ただ、「しずく」のデータは地球規模の気候変動の解析だけでなく、海水温の変動や流氷の動き、地中の水分量などを把握して狭いエリアの気象予測にも役立つ可能性が高い。このため、JAXAは「しずく」の観測データをインターネット上で公開する方針で、公的機関や研究者だけでなく、民間企業が商業的にデータを活用することも可能だ。

 例えば、北極海の流氷の動きをモニターしておけば、船舶の安全な航路を見つけられ、大量の貨物を早く輸送することが可能になる。また、土壌中の水分量をチェックすれば、干ばつの危険性をいち早くつかむことができるので、農作物の被害を最小限に食い止めることもできる。海水面の温度分布から魚の行動を予測して、遠洋漁業の効率を高めるといった使い方も考えられる。

 なお、JAXAは米航空宇宙局(NASA)やフランス宇宙研究センター(CNES)とも協力し、同一軌道上を複数の観測衛星が時間をおいて周回するように設定。およそ10分間隔で同じ地点を観測し、データの欠落を防ぐ仕組みを構築するなど、水循環変動観測プロジェクトは国際的な枠組みで進められる予定だ。

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