空の戦いでは先に敵を発見した側が圧倒的な優位となる。これは航空機同士の戦闘が始まった第1次世界大戦から現代に至るまで変わっていない鉄則だ。ただし、第1次大戦当時、敵を発見するのはパイロットの肉眼であったのに対し、現代戦では生身の目では見通せない遠距離であっても、レーダーによって敵機の位置を確認できる。第2次世界大戦以降、各国はレーダーの性能を向上させることにしのぎを削ってきたが、21世紀になるとレーダーに発見されない技術=ステルス性能が追求されるようになり、究極の「見えない」戦闘機を目指して開発が進められている。
F35Aの最大の売り物はそのステルス性能で、どの角度からレーダー波を浴びても反射面積が最小限に抑えられるフォルムになっている。さらに機体外板の継ぎ目の凹凸を極力減らし、その上に電波吸収材をコーティングしているので、単位面積当たりの電波反射量も少ない。また、大容量の機内燃料タンクを備え、ミサイルや爆弾も機体下部のウエポンベイ(兵器倉)に収納する構造になっているので、レーダー波の反射を増大させる増加タンクや外部兵装を搭載せずに戦闘ミッションを遂行することが可能だ。
ステルス性能は高度な軍事機密のため、F35Aについても具体的な能力値は公表されていない。ただ、同じロッキード・マーチン社が開発したステルス戦闘機F22ラプターの場合、「レーダーに映るのは小鳥程度の面積」だとされており、F22の実績をベースに設計され、機体サイズもより小さいF35Aのステルス性能がそれを下回ることはないとみられている。FXの候補となったFA18やユーロファイターなど、旧世代に属する戦闘機も機体の改修や電波吸収材の使用によって、ある程度のステルス性能を獲得しているが、機体の設計段階からそれを最優先にしてきたF35Aとは比較の対象にならない。
航空自衛隊は当初、FXとしてF22を調達する意向だったとされる。しかし、米国のオバマ政権は機体が高価でメンテナンスにも手間が掛かるF22の製造を計画より早めて打ち切ってしまい、日本への輸出も認めなかった。結果として「2番手」のステルス機を調達することになったが、F35はF22より10年程度遅れて開発が始まったため、その分さらに高度な次世代技術を活用することができた。また、F22がエンジン2基を備えた双発機なのに対し、単発のF35Aは高額なエンジンの費用が半分で済んでいる上、3000機以上の生産が決まっているためスケールメリットも生かせ、機体価格はF22の半分以下とされている。
ロッキード・マーチン社によれば、F35AはF22の運用経験を基に、交換頻度の高い部品をできるだけ機体の外側に配置して整備工数を抑えたり、電波吸収材の再塗布の手間を省いたりするなど、より整備しやすくなるように心掛け、メンテナンスコストも大幅に低減されたという。また、対空戦闘任務に特化しているF22と違い、対地・対艦攻撃能力を持つF35Aは航空自衛隊の長期的ニーズにも合致しており、結果的として「お得な買い物」になる可能性もある。
新着
会員限定