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レジェンドに昇華した佐藤琢磨 インディ500V、再び金字塔

世界3大自動車レース

 8月23日。米インディアナ州インディアナポリスのインディアナポリス・モータースピードウエーにおいて、新型コロナウイルスの影響により無観客で実施されたインディアナポリス500マイル(通称インディ500)の決勝。1周約4キロの長方形に近い楕円(だえん)コースを200周し、一気に約800キロを走破する104回目の伝統レースで、佐藤琢磨(43)=ホンダ=が2017年に続く2度目の優勝を果たした。初制覇は日本人初優勝で大きな話題を呼んだ。3年ぶりの制覇は驚きこそ薄れているものの、世界3大自動車レースの一つを短期間に2度も制した快挙は最大級の賞賛に値する。日本のモータースポーツ史上、唯一無二となるレジェンドのポジションに昇華したと言えるだろう。(時事通信運動部 佐々木和則)

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 世界3大自動車レースとは、F1世界選手権シリーズに組み込まれるモナコ・グランプリ(GP)、世界耐久選手権(WEC)のハイライトであるルマン24時間耐久レース、そしてインディカー・シリーズの看板イベント、インディ500だ。

高貴なモナコGP

 例年5月開催のモナコGPはモナコ公国で行われ、華やかなモンテカルロ市街地コースを舞台に、カラフルなF1マシンが追い抜きの難しい狭い公道で栄冠を競う。毎年、モナコ公室が観戦し、優勝者には大公がトロフィーを授与する。世界のセレブが集う、最も華やかで高貴なレース。際だってモナコGPに強いレーサーには「モナコ・マイスター」の称号が与えられ、最多6度優勝の故アイルトン・セナ(ブラジル)、ともに5度制覇の故グラハム・ヒル(英国)とミヒャエル・シューマッハー(ドイツ)らが、その称号にふさわしい。

 第1回開催は1929年。50年は、この年にスタートしたF1世界選手権の開幕第2戦として開催され、55年以降はF1に組み込まれている。日本人ドライバーの優勝はないが、ホンダ・エンジン搭載車は過去、何度もモナコGPを制覇。セナはロータス・ホンダで1勝(87年)、マクラーレン・ホンダで4勝(89~92年)。アラン・プロスト(フランス)もマクラーレン・ホンダ初年度の88年にモナコを制した。また、96年大会はリジェ無限ホンダのオリビエ・パニス(フランス)が自身唯一のF1優勝を遂げ、エンジンを供給した無限ホンダが日本勢として優勝に関わった。今年のモナコGPは新型コロナウイルスの影響で中止になった。

過酷なルマン24時間

 ルマン24時間の初開催は1923年。フランス・ルマン市のサルテ・サーキットを舞台に例年6月に開催され、現在は1周13.6キロ超のサーキットを午後3時から翌日午後3時まで、ひたすらレースを続け、24時間の周回数を競う。

 18~19年シーズン以降、WECは事実上、トヨタ勢の1強状態となっており、トヨタ8号車の中嶋一貴、フェルナンド・アロンソ(スペイン)、セバスチャン・ブエミ(スイス)が2018、19年と連覇。18年はトヨタ勢にとって悲願の初優勝で、今年は9月に延期された20年大会でトヨタ勢3連覇が懸かる。ドライバーを交代しながらとはいえ、24時間続ける運転は過酷のひと言で、「世界一過酷な耐久レース」。特に夜間の走行は危険と隣り合わせだ。

インディ500、歴史は100年超

 インディ500はモナコGP、ルマン24時間より前、第1回開催は1911年で、3大レースの中で最も長い歴史を誇る。同じコースを周回し、500マイル(約800キロ)を走破する一見単調なレースだが、現在の決勝は33台が出走し、決勝でも最高速は360キロ前後。予選では370キロを超える世界一の高速レースだ。

 派手なクラッシュはつきもの。先頭でチェッカーフラッグを受けるまでには幾多の試練が待ち受け、勝者はアメリカン・ドリームの体現者とされる。これが米国人から100年以上にわたり、変わらない支持を集める国民的なレースたるゆえんだ。

大舞台に強い佐藤

 その伝統レースを1度ならず2度も勝った佐藤。記録をひもとくと、最多優勝は3人が達成している4度で、複数回の優勝者は佐藤が史上20人目になる。インディカーの現役フル参戦ドライバーで、複数回インディ500を制したのは佐藤だけ。ちなみに、佐藤は今回の勝利でインディカー・シリーズ通算6勝目。そのうち2勝がインディ500だから、優勝の3分の1がインディ500という、とてつもなく大舞台に強いドライバーということになる。

 振り返れば、2017年のインディ初制覇の時は衝撃的だった。強豪アンドレッティ・オートスポーツ所属だった佐藤は4番手発進からレースを組み立て、最終盤に過去インディ500を3度制しているエリオ・カストロネベス(ブラジル)を抜き、その後の猛追をかわした。

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