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燃える両雄 柔道の丸山と阿部

五輪切符争い火花

 東京五輪切符をほぼ手中に収めるのか、「待った」をかけて逆襲していくのか―。11月22日に大阪市の丸善インテックアリーナ大阪で行われた柔道のグランドスラム(GS)大阪大会、男子66キロ級決勝。ともに五輪で金メダルを狙えるライバル同士、丸山城志郎(26)=ミキハウス=と阿部一二三(22)=日体大=が激突した。丸山は今夏の世界選手権で優勝。阿部は2017、18年世界王者だ。互いに譲らず、攻防が続いた末の延長3分27秒。丸山が不十分に内股に入ったところを、組み勝っていた阿部が足技で合わせて技ありを奪った。

 全日本柔道連盟は今年の世界選手権とGS大阪を制した選手について、強化委員会の3分の2以上の賛成を得れば東京五輪代表に決める選考方式を導入。GS大阪の結果次第では、丸山が早々と五輪代表を決める可能性もあった。崖っぷちで阿部が踏みとどまり、1枠しかない代表レースは継続。両雄はどこまでも、火花を散らしていく。(時事通信運動部 岩尾哲大)

1年前は「意地」の勝利

 「大坂の陣」は熱い。1年前、丸山と阿部の立場は正反対だった。丸山が昨夏のジャカルタ・アジア大会で2位にとどまると、その後の世界選手権で阿部が2連覇を達成。柔道の個人戦男女計14階級の日本勢で、五輪代表候補と2番手の差が最も広かったのが男子66キロ級と言えた。昨年11月のGS大阪で両者が決勝進出。阿部が優勝すれば早々に今夏の世界代表に決まるところだったが、丸山が延長の末に優勢勝ちを収めた。「意地。それだけだった」。丸山はそう言った。直前に阿部の妹、女子52キロ級の詩が優勝していたこともあり、丸山はきょうだいの同時優勝を期待する雰囲気を感じ取っていたという。「見てろよ。指導で勝つのはつまらない。投げて勝つ」と反骨心を燃やしていた。

 とはいえ、その時点で実績では阿部がはるかに上。丸山には、おぼつかない光が差し込んだに過ぎなかった。それでも、自らの手で徐々に、少しずつ、輝きを大きくしていった。翌12月の世界ランキング上位者が集うワールドマスターズ、今年2月のGSデュッセルドルフ大会を制覇。4月の全日本選抜体重別選手権では開始から13分を超える激闘の末、阿部に優勢勝ち。初の世界選手権代表を勝ち取った。阿部も出場した世界選手権(東京・日本武道館)では準決勝で直接対決。右膝を負傷しながらも延長戦で優勢勝ちし、決勝も制して頂点に立った。

 丸山は「今後の柔道人生に、大きく、いい方向に影響する」と、その意味をかみしめた。3連覇を阻まれた阿部は3位。同じ日、妹の詩が連覇を遂げたのとは対照的な結果に終わり、涙ながらに「兄として残念というか、情けない」と声を絞り出した。早くから東京五輪のホープと言われ続けた逸材が、窮地に立たされた。

ゼッケンの色も

 丸山と阿部にとって、世界選手権以来の実戦がGS大阪だった。勝負の日の2日前、日本男子の合宿が公開され、ともに取材に応じた。丸山は、阿部が五輪行きを阻止しに来ることについて問われ「それはもう全く頭の中には入っていない。自分の道をしっかり通っていくだけ」と答えた。1年前に阿部を破った試合であらわにした対抗心は、胸の内に収めていた。

 阿部の意気込みは、吹っ切れた様子を感じさせた。「自分の柔道を100%出して勝ち切りたい。気の緩みは一切なしで、初戦から全開でいく」。立場通り、挑戦者としての言葉だった。

 柔道の国際大会では、直近の五輪金メダリストは金、世界選手権優勝者は赤、他の大多数の選手は青を基調としたゼッケンを背負う。今回は丸山が赤色、阿部が青色。これも1年前とは真逆だ。

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