全国農業協同組合中央会(全中)の中家徹会長が、「持続可能な食と地域づくり」をテーマに、作家の佐藤優氏と対談した。2人は「農家は命の一番大事なことに携わるプライドを持つ」「国家機関でない第3の、農協などの中間団体が個人を守る」などと、農協の存在意義について熱い議論を交わした。
2019年2月15日に開かれた、時事通信社の関連団体である社団法人・内外情勢調査会の大阪支部懇談会の様子を再現する。
◇ ◇
【佐藤氏】
最初に7点指摘したい。まず1番目。戦時中は朝鮮半島や満州から食料が来ており、配給体制が一応続いていたが、戦後は大変な食料難に陥った。この事は忘れてはいけない。今後、同じような状況は起こりえる。
2番目。日本の高度成長を作り上げた考え方は農業の思想だった。トランジスターラジオ、鉄鋼などを、農家がミカンやコメを作るのと同じで、モノ作りに価値を置いた。いくら儲かるかではなく、社会に貢献するという考え方だった。
3番目。TPPなど様々な貿易の枠組は自由貿易ではなく、一種の関税同盟で保護主義だ。日本は入らざるを得なかったが、域内と域外で障壁を設けるから、状況によっては不利になる。TPPも中身を見ると国家のエゴが出ている。建前と異なり、実際は自国の事しか考えていない。
4番目。食べ物を買いたくても買えない時代が来るかもしれない。知人は「関税障壁をなくし自由貿易にしようとしても、今後は輸出規制が来るぞ」と警告する。フードバンクのような活動を応援し、食料を無駄にしていない事を国際社会に示さないと、買えなくなる。
5番目。私は農協のファンだ。民主主義において農協は非常に重要だ。モンテスキューの「法の精神」で決定的に重要なのは、「中間団体」、協同組合の重要性。個人の利益を代表するものでなく、国家機関でもない第3の、共同体の利益を代表する中間団体が、国家の暴走を防ぎ、個人を守ると書いていることだ。この有力な団体が農業団体だ。利益追求と権力による支配だけでは、民主主義が窒息する。今の中央集権の流れを進めると、地方はボロボロになる。今制度設計をするなら、時間はあまり残されていない。
6番目。資本、利益の論理を農に持ち込んだらダメだ。農業団体や農家のエゴと言われても、気にしないことだ。1人のエゴではなく、集団的な利益につながるなら、目一杯主張を行うべきだ。農業団体が政治団体化しすぎているというのは、ためにする批判。他の業界が農業団体の利益を削り取っているので、頑張ってほしい。
7番目。農業人口増のため、決定的に大事なのが教育だ。自然とモノを作るという喜びや価値観を子供が持たず、ただ偏差値だけの価値観、稼ぐ金額だけで評価すると、最終的に社会が弱くなる。
新着
会員限定