=村主4位、安藤は15位=
【トリノ23日時事】第20回冬季オリンピック・トリノ大会第14日は23日、当地などで行われ、フィギュアスケート女子で2大会ぶり出場の荒川静香(24)=プリンスホテル=が金メダルに輝いた。
日本選手のメダル獲得は今大会初めて。フィギュアでは1992年アルベールビル大会銀の伊藤みどり以来4大会ぶり2個目で、金は初の快挙となった。冬季大会での日本の金メダルは、5個を獲得した98年長野大会以来で通算9個目。女子では長野大会フリースタイルスキー女子モーグルの里谷多英(現フジテレビ)に次ぐ2人目の金メダリストとなった。
21日のショートプログラム(SP)で3位につけていた荒川は、この日の自由演技でもミスがなく、高得点を挙げた。SP1位のサーシャ・コーエン(米国)、同2位で2005年世界選手権優勝のイリーナ・スルツカヤ(ロシア)がともに転倒。荒川がこの2人を抜き、逆転で五輪女王の座に就いた。
荒川は高校生で五輪に初めて出場した長野大会では13位。前回ソルトレークシティー大会は代表を逃したが、04年世界選手権でコーエンを抑えて優勝した。
2大会連続出場の村主章枝(avex)は前回の5位を上回る4位に入り、前回に続く入賞。初出場でSP8位の安藤美姫(愛知・中京大中京高)は冒頭で挑んだ4回転ジャンプで転倒するなど崩れ、15位だった。
◇ただ、びっくり
荒川静香 信じられない。まさかメダルを取れるとは。ただ、びっくりです。(演技は)1つミスがあったけど、楽しく滑ることができた。8年ぶりの五輪で、雰囲気を味わえれば、いいなと思っていた。SPから結構冷静に臨めた。いまだに信じられない。たぶん日がたつにつれて実感できると思う。(時事)
◇「美」を求めて集大成
優美で風格すら漂う荒川の舞いに、満員の場内が沸き続けた。
冒頭に予定していた2通りの3―3回転連続ジャンプを3―2回転に切り替えたが、これを無難にこなすと、手を使わずにY字姿勢を保つスパイラルでは大きな拍手を浴びた。終盤には、背中を柔らかに反らしながら滑る「イナバウアー」から3連続ジャンプへ。観客席のスタンディングオベーションに迎えられて演技を締めくくった。
「滑っている4分間、過去の試合のことが頭をよぎった。ここで滑れていることが集大成になるんだな、と」。2004年の世界選手権を制した時に近い、不思議な感覚に包まれて心地よく滑り切った。対するライバルたちはどうか。コーエンもスルツカヤも、ジャンプで転倒。終わってみれば、荒川の圧勝だった。
8年ぶりの五輪行きを決めた後、自由の曲目を、初めて世界を制した時と同じプッチーニのオペラ「トゥーランドット」に変えた。当時の完ぺきな演技と比較される恐れもあったが、ある「こだわり」を貫くためには欠かせない選択だった。
世界女王となった翌シーズン、個別の要素に点数を付ける新採点方式が本格導入された。演技全体を総合的に評価する旧方式になじみ、「美しい姿勢を長く見せたい」と考え、それにこだわる荒川。新方式に伴い、スピンの回転数やスパイラルの秒数を気にしながら滑ることに息苦しさを感じていた。競技に打ち込めなかった昨季、五輪代表を懸けた今季の苦しみ…。新採点への対応が拍車を掛けた。
だが、トリノでは「スケートが好き」という気持ちを伝えたかった。今のルールでは得点にならないが、自身の代名詞とも言えるイナバウアーを長く見せたい。そのために、この技で2年前、観衆を熱狂させた「トゥーランドット」を再び選んだ。そして、表彰台の真ん中へ立った。
「今季は失敗を恐れて小さくなっていたが、今回それはなかった」。旧採点方式では最後の世界選手権で頂点に立った荒川が、新採点制になって最初の五輪も制覇した。(トリノ時事)
◇「まさかわたしが取れるとは」
荒川静香がフィギュアスケートでは日本人初の金メダル獲得となる快挙を成し遂げた。表彰台の中央に立って満面に笑みを浮かべた荒川は、記者会見で喜びを語った。
―ここまで日本にメダルがなかった。重圧にならなかったか。
まさかわたしが取れると思わなかったので、こうしてメダルを取ったことにびっくりしている。
―完ぺきな演技に見えたが。
一つ、3回転ジャンプが2回転になったのが悔やまれる。どうしても3回転―3回転に挑戦したかった。それが決まらず残念だが、滑っていて心地よかったことが一番。
―2種類の3―3回転ジャンプが、3―2回転になったのは。
一つ目は直前でコーチの指示があった。2種類目では一つ目を跳んだ瞬間にバランスを崩し、強引にやったら2回転の判定になると思ったので切り替えた。
―メダルを胸にしての「ウイニングラン」はどんな気持ちだったか。
いまだに信じられない。頭の中が真っ白な状態で(リンクを)回った。
―2004年の世界選手権優勝後、引退を考えながらそうしなかったのはなぜか。
昨季は迷いながら続けていた状態。そこから抜け出すには、スケートを楽しんで達成感があるまでやりたいと、去年の世界選手権で思った。続けてきたことがよかったのと、続ける道をつくってくれた人に感謝したい。
―浅田真央は将来チャンピオンになれると思うか。
可能性は十分あると思う。その年その年のチャンピオンは才能と運が重なった時になれるので、頑張ってほしい。
―今後何をしたいか。
アイスショーなどで滑っていけたら幸せ。いつまでも誰かに「見たい」と言われるようなスケートをしたい。
―3月の世界選手権には出場するのか。
エントリーされているので出るつもりだが、今の状況では分からない。(トリノ時事)
◎最高の演技で観客を魅了
【トリノ23日時事】23日に行われたフィギュアスケート女子で荒川静香選手(24)=プリンスホテル=の金メダルが決まった瞬間、会場のパラベラ競技場は大きなどよめきが起こり、日の丸が揺れた。観客席で見守っていた母・佐知さん(51)は感極まって涙ぐみ、父・晃市さん(53)に支えられた。荒川選手が演じた最高のスケーティングは、日本だけでなく外国の観客をもとりこにした。
荒川選手はプッチーニのオペラ「トゥーランドット」のメロディーに乗り、軽やかに滑り出した。冒頭の3回転ルッツ―2回転ループのコンビネーション・ジャンプを決めて観客の注意を引く。時間を経るにつれて拍手はどんどん大きくなり、誰もが彼女の世界に引き込まれていった。そしてフィナーレ。4分間の演技ですべてを出し切った荒川選手は満足そうに笑顔で手を振り、立ち上がって熱狂する観客に応えた。
金メダルは劇的な形で決まった。最後に登場したのは優勝候補のスルツカヤ(ロシア)だが、プレッシャーのせいか滑りにいつもの滑らかさがなく、転倒する場面も。荒川選手のメダルの色は、金か、それとも銀か。日本応援団はかたずをのんでスルツカヤの得点が出るのを待った。そして最高の結果がもたらされた瞬間、会場の興奮は最高潮に達した。
佐知さんは「メダルは取れるとは思っていたが、まさか金とは思わなかった。これ以上にない親孝行をしてもらった」と興奮気味に話す。当初、荒川選手は競技生活を20歳までと決めていた。ただ「もっと静香がスケートをしている姿が見たかった」(晃市さん)という両親の気持ちを酌んで現役を続行。しかし、トリノ五輪が近づいても調子が上がらず苦しむ娘を見て、佐知さんは「もうやめてもいいのよ」と言ったこともあった。
この言葉に逆に発奮したのか荒川選手は「トリノまでもう一年は頑張る」と決意。厳しい国内選考を経て、五輪での頂点に立った。トリノでの荒川選手は佐知さんからみても「軽やかで明るかった」という。様々な経験の積み重ねが荒川選手を精神的にも大きく成長させていたのだろう。
「娘の人生はさっき変わってしまった」と晃市さんは言う。荒川選手が競技を続けるにせよやめるにせよ、日本フィギュア界初の五輪金メダリストとしてこれから多忙な日々が待ち受けている。「一年ぐらい何もしないで休ませてあげたいけどそうもいかないでしょうね」。佐知さんはポツリとそうつぶやいた。
◎荒川静香の自由演技構成
▽3回転ルッツ+2回転ループ
▽3回転サルコー+2回転トーループ
▽3回転フリップ
▽フライング・キャメルスピン④
▽スパイラル④
▽2回転アクセル(2回転半)
▽3回転ルッツ
▽2回転ループ
▽キャメルスピン④
▽3回転サルコー+2回転トーループ+2回転ループ
▽足換えコンビネーション・スピン④
▽ストレートライン・ステップ③
▽足換えコンビネーション・スピン④
※○内数字は難度のレベル(4が最高)
(時事)
新着
会員限定