稀勢の里、苦闘の日々

耐え抜いて男泣き

 ◆奇跡の逆転優勝

 ◇2017年春場所千秋楽(3月26日、エディオンアリーナ大阪)◇
 割れんばかりの歓声が、稀勢の里を祝福した。出場さえ危ぶまれたけがを抱えた新横綱が、執念を見せて逆転優勝。「苦しかった分、うれしい」。感情を抑え切れず、人目をはばからずに泣いた。 
 二の腕には大きなあざが広がっていた。痛みは「想像に任せます」と明かさなかったが、苦痛の表情をめったに出さない稀勢の里が13日目の負傷直後にうめき声を上げた。状態は相当に悪かったはずだ。
 1差で追う照ノ富士との本割は、1度目の立ち合いで右に動いたが不成立になった。2度目は「同じことはできないから、違うことをしようと思った」と左へ変化。真っ向勝負を貫いてきた男が、信念を曲げて白星を求めた立ち合いだった。
 本割では相手の圧力を回り込んでかわしながら、突き落とした。優勝決定戦ももろ差しを許す絶体絶命のピンチから捨て身の小手投げを決めた。苦境を乗り越えた末の賜杯は、入門15年で初めてつかみ取った先場所と比べても「違うものがある」。痛めた左肩付近で支えるようにして抱えた。
 表彰式では止めどなく涙があふれた。「すみません。今回は泣かないと決めたんですけど。もう本当にこの応援のおかげと支えてくれた人のおかげ」と言葉を紡いだ。貴乃花以来、22年ぶりとなった新横綱の優勝は、あの時を思い起こさせる奇跡的な結末に。稀勢の里の男泣きは、2001年夏場所の優勝決定戦で貴乃花が見せた鬼の形相と同様に、間違いなく人々の記憶に刻まれた。(運動部)
(2017.3.26配信)

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