稀勢の里、苦闘の日々

「腰高でも攻めろ」と北の富士さん

 ◆久々に左四つの型

 ◇2018年初場所2日目(1月15日、東京・両国国技館)◇
 左を差し、右上手にも手を掛けようかという体勢で寄り切り。稀勢の里が北勝富士を下し、初白星を挙げた。しっかりした左四つの型で勝負を決めたのは、昨年名古屋場所4日目の正代戦以来だ。
 北勝富士は今場所、自己最高位の東前頭筆頭に上ってきた伸び盛り。頭で当たり合うと、稀勢の里は左をおっつけて出た。左を手繰られ、一瞬ヒヤリとさせたが、向き直ってまた左差し狙い。半身になりかけていったん突き放し、前に出ながらうまく左差しを果たして体を寄せた。
 4場所連続休場から再起を図る場所で、初日に黒星。かたずをのんでこの日の一番を見守った観衆からは大歓声が起こった。横綱が初白星を挙げて大騒ぎになるところが、現在の相撲界と稀勢の里自身が置かれた状況を表している。支度部屋の稀勢の里はいつも通り、報道陣の質問に「8策戦は」うん、まあ、いろんな流れがありますから」「うん、まあ」「うん」「またあした集中して」などと短い答えを繰り返す。口元を緩められるのはまだずっと先だが、館内の大声援には「ありがたいこと」と感謝した。

 ◆危機脱出の打開策は

 昨年春場所で痛めた左腕は、おっつけの強さが戻り切っていないとはいえ、この日のようにだいぶ使えるようにはなってきた。場所前の体重測定では177キロ。同夏場所前の自己最重量から7キロ減った。少しオーバー気味で下半身の負担になっていた状態から比べれば、絞られた。
 とはいえ、先場所途中休場の理由となった左足首や腰の故障は、万全に回復したかどうか分からない。動きがぎこちなく、四股を踏むにも一方の足に体重が乗り切っていないように見える。腰高は今や稀勢の里の代名詞。この日も次第に腰が高くなっていった。
 腰高はずっと指摘され続けてきた欠点で、足が長いことも影響しているが、力士としては足の長い横綱がこれまで何人もいた。貴乃花、曙、双羽黒…速攻を身上とした現解説者の北の富士勝昭さんもそうだった。
 「だから守りに弱かった(笑)。そういうタイプの力士は、腰を落とすと攻めるスピードがどうしても落ちる。少々腰高ぐらいの方が速く攻められるんだ。守りに弱いリスクあるけれども、私なんかはよく、北の富士はちょっと腰が高いけどしょうがないよな、と言われたもんだよ」
 不祥事が重なった相撲界を救うべき3横綱が、それぞれに厳しい立場で初場所を迎えた。横綱になって白鵬は63場所目、鶴竜は23場所目。まだ1年の稀勢の里に最も大きな期待が懸かるムードは酷でもあるが、かつて自称「稀勢の里を横綱にする会の会長」だった北の富士さんは、「稀勢の里もどんどん攻めればいい。もうそれしかないよ」と語る。自らのピンチも相撲界の危機も救う打開策は、無心の攻めだ。(時事通信社・若林哲治)
(2018.1.15配信)

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