◆視界晴れなかった横審総見
学生時代の友人から、どこか具合でも悪いのかとメールが来た。なぜかと返したら、このコラムが2カ月も更新されていないからだという。余計な心配をかけて申し訳ないことをした。
名古屋場所の千秋楽翌日に横綱審議委員会の定例会合があった後、更新しようとしたが、私は基本的に横審は要らないと思っているので、結論から書き始めたら2行で終わってしまった。どうしたものかと考えているうちに、千葉で行われた世界女子ソフトボール選手権の取材にどっぷり。東京五輪で金メダルを目指す日本女子の、しびれる戦いを追い掛けて8月が半分過ぎた。
その後も何かと仕事や行事が続き、気がつけば番付発表。本場所と巡業に追われる力士たちほどではないにせよ、もう秋場所かと思いながら稽古場を回っている。
8月31日は横審の稽古総見があった。秋場所に進退を懸ける(はずの)稀勢の里は8番。NHKのニュースではいいところばかり編集していたが、豪栄道に立ち合いから中に入られて寄り切られ、次は鶴竜の動きについていけず引き落とされた。左四つで鶴竜を寄り切り、豪栄道と張り手も交えた激しい相撲が3番続いた後、栃ノ心を当たってから突き落とし、最後は鶴竜に寄り切られた。
解説者の舞の海秀平さんは、前向きにとらえた。「ずいぶん良くなった。力強さと粘り強さが目立った。危機脱出に希望が持てる。横綱大関とこれだけ取れるとは。(左の)下手に力が出てきた。(今場所に臨む)覚悟ができていると思う」
◆「今の精いっぱい」
稀勢の里自身の状態だけを以前と比べれば、良くなっているのは確かだが、相撲は格闘技。本場所で相手を上回るところまで復調しない限り、危機は脱出できない。北の富士勝昭さんの見方は厳しかった。
「豪栄道との2、3番は気力も見えたけど、まだまだ。左四つで右上手を引いて胸を合わせる相撲でないと、動きについていけない。軽いなあ。最初の2、3番なんて、どうしたの?というくらいだった」
鶴竜と豪栄道を土俵外へ出した相撲がそれぞれ1番あったが、鶴竜も豪栄道も前日までに稽古場で見た限り、ほぼ順調に調整が進んでいて、この日も余裕があった。稀勢の里のように息も上がっていない。八角理事長(元横綱北勝海)は稀勢の里について「本場所を見ないと分からない。重圧が違うから。今の精いっぱい(できることを)をやっているんじゃないか」と評した。懸命な姿は認めながらも、やはり見通しは慎重だった。
稀勢の里本人はどう感じたか。「久々にああいう相撲を取れて良かった。少しずつ良くなっていくと思うし、しっかりやるべきことをやって体をつくっていきたい。いいきっかけになってくれれば」
お相撲さんのコメントにいちいち疑問を差し挟んでも仕方がないが、夏巡業の初め頃ならまだしも、初日まであと8日になってそう言われても…と不安にならざるを得ない。
再び北の富士さんの話。「番数が多けりゃいいってもんじゃないといっても、初日までにピッチを上げていって…どうなのかねえ。巡業中にみっちりやってきたなら話は別だが、20日で100番だって? 1日5番だろう」。巡業の正確な日数と番数はもう少し多いが、大意は同じ。<「下」に続く>(時事通信社・若林哲治「土俵百景」から)
(2018.9.1配信)
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