稀勢の里 苦闘の日々

初黒星、正念場の中盤戦

 ◆吉兆一転、千代大龍の術中に 注目の横綱稀勢の里に土がついた。大相撲秋場所6日目(14日、東京・両国国技館)、大事な序盤を5連勝で乗り切ってファンをほっとさせたばかりで、この日は千代大龍の術中にはまって初黒星。進退を懸けた場所は、第二関門の中盤戦に入った。
 191キロある千代大龍のぶちかまし。稀勢の里も左で踏み込み、左をのぞかせた。勇んで出たが、千代大龍が素早く右に体を開いていなすと、たまらず横向き。向き直ることもできないまま、押し出された。
 東の支度部屋。しばらく口を結んだままの稀勢の里は、質問を受けながらしばらく無言。「あしたから…」と向けられてうなずき、「あしたはあしたで」「またやっていきたいですね」。目の前で聞いていても、なかなか聞き取れない声でつぶやくように口を開いた。前日までと同じく「集中して」と言ったような、言わなかったような…。険しい表情が続いたかと思えば、気持ちが沈まないようにするためか、口元に笑みも浮かべた。
 帰り際、一斉に光るカメラマンのストロボ。ファンも周囲で見守る人たちも、たった1敗と片付けられない稀勢の里の危うさが表れている。序盤戦の5連勝は、多くの関係者にとって望外のスタートだったが、初日以外は危ない相撲が続いていた。一つの黒星をきっかけに崩れる心配はぬぐい切れない。

 ◆「あしたから」と理事長

 7日目の相手は過去1勝1不戦敗の千代の国で、その後の8日間は番付順に鶴竜、白鵬、豪栄道、栃ノ心、御嶽海、逸ノ城、玉鷲と7人が役力士だ。あと1人の前頭が誰になるかも注目される。
 場所前の二所ノ関一門連合稽古では1日目に玉鷲、2日目に豪栄道とだけ稽古をした。2日目を見た解説者の北の富士勝昭さん(元横綱)は「どうしてもっといろんな相手と稽古しないのかな」と首を傾げた。これから地力はもとより、攻め手が多彩で動きも速い上位陣を相手に、どんな相撲を取っていくか。
 出足が肝心と思い切って出れば、この日のような展開もある。審判長として土俵下で見た一門の兄弟子、高田川親方(元関脇安芸乃島)が「本場所の自信は本場所でしかつかないから」と指摘するように、長い休場明けで簡単に相撲勘は戻らない。
 八角理事長(元横綱北勝海)は「あしたからでしょう」。昨年春場所を最後に果たしていない15日間の皆勤。失った自信を取り戻し、「再起」といえるところまでたどり着くために、正念場がやってきた。(時事通信社・若林哲治)
(2018.9.14配信)

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