2017年初場所後、横綱稀勢の里が誕生した。19年ぶりの「日本出身横綱」に相撲ファンは大きな期待を寄せ、新横綱の春場所では左腕と胸のけがをこらえて奇跡の逆転優勝。感動を呼んだが、代償は大きかった。その後は途中休場と全休を繰り返し、18年名古屋場所までついに歴代横綱で最長の8場所連続休場。昇進10場所目の秋場所で進退を懸けるところまで追い込まれた。遅咲きの和製横綱が歩んだ苦闘の日々をたどる。(時事ドットコム編集部)
◆頼みは左の差し手一本
◇2018年秋場所7日目(9月15日、東京・両国国技館)◇
連敗だけは避けたかった土俵。稀勢の里が横綱2場所目から崩れた起点は、全てが金星配給からだった。今年の初場所も去年の九州場所も3連敗して休場に追い込まれただけに、辛抱して平幕の千代の国を退けた白星の意味は大きい。
横綱の頼みは、左の差し手だった。激しい突っ張りを受けながらも、相手を正面に置いて対処。いなしにすそ払いも繰り出した相手が右上手をつかみ、ようやく左四つに。頭をつけられる苦しい体勢で上手投げを左からすくってこらえ、再び投げにきたところで仕留めた。差し手の方へ体をしっかり寄せると、相手の左足が土俵外へ。「まあ、しっかりやりました」と淡々と振り返った。
進退を懸けた場所で、初黒星を喫した後の一番は、かつてない重圧もあっただろう。同じ一門の芝田山親方(元横綱大乃国)は「負けの後遺症を引きずらないこと。連敗うんぬんより、自分の相撲をしないと先に続かない」とみる。
8日目の相手は過去9勝2敗と圧倒している玉鷲だが、今の横綱に簡単な相手はいない。「しっかり集中していく」。厳しい戦いが続くことを覚悟するように言った。(運動部)
(2018.9.15配信)
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