◆相撲内容好転せず
苦戦続きでも何とか勝ち星を挙げてきた横綱稀勢の里が、この日は完敗だった。大相撲秋場所8日目(16日、東京・両国国技館)、前日まで7連敗の小結玉鷲にいいところなく押し出され、2敗目。ここまで勝った一番でも好転していない相撲内容や、今後の対戦相手を考えると、千秋楽まで乗り切れるか。視界不良のまま後半戦に入ろうとしている。
この日は馬力相撲の玉鷲が相手だけに、立ち遅れまいとの意識が強かったのだろう。先に手をついて待つ玉鷲に対し、自分だけの呼吸で立って玉鷲が受けられず、待った。
2度目の立ち合いは左で踏み込み、頭で当たり合いながらも、当たり負け。左のはず押しをもろに受けた。同時に右のど輪で上体が起き、何とか左へ回り込もうするのがやっと。難なくついてきた玉鷲に、もろ手で胸を押されて土俵下へ追いやられた。
稀勢の里は場所前の3日にあった二所ノ関一門連合稽古で、玉鷲を相手に指名して10番取っている。大半は稀勢の里が組み止めて寄り切り、気を良くした様子だったが、玉鷲は関取衆と申し合いをした後でもあり、見守った親方衆も本音では割り引いて見ていた。
案の定、この日の玉鷲は当たりもはず押しやのど輪の威力も違っていた。「研究しました。左のはず押しが効くことが頭にあったので」と玉鷲。
◆無言で浮かべた苦笑
稀勢の里は支度部屋で無言を通した。質問にうなずくなどの反応もない。千代大龍に初黒星を喫した6日目に比べ、心なしか目がうつろに見えた。前日、千代の国に大苦戦して辛勝した後もこの日も、ふと口元に浮かべた苦笑は、今の自分の力を悟ったかのようでもある。疲れの色も浮かび始めた。
過去に横綱が引退の危機を乗り切った時は、多くが2桁勝ち星を挙げ、優勝した横綱もいた。時代や状況が違って、今場所の稀勢の里は勝ち越せばよしとされる空気が漂い、多くの親方衆は「あと2番ぐらいは何とかいくだろう」とみるが、相撲内容は少しも良くなっていない。勝ちさえすればいいのは3日目ぐらいまで。徐々に内容も伴っていかなければ、手応えを感じて後半戦に臨むことができない。
稀勢の里の連続休場でよく引き合いに出される貴乃花は、膝の大けがで7場所続けて全休した後、2002年秋場所に進退を懸けて出場した。直前まで出られるかどうかも危ぶまれる状態で、5日目までに前頭に2敗した時点では「千秋楽が全く見えなかった」と、後で振り返っている。だが、8日目には大関候補の若の里を横綱相撲で寄り切って6勝目。下半身の力も戻り、10日目に勝ち越しを決めると、最後は武蔵丸と優勝を争った。
稀勢の里の9日目は栃ノ心。いよいよ大関戦だ。名古屋場所途中休場の原因となった右足親指のけがが完治せず、かど番で3敗目を喫し、こちらも必死で向かってくる。「平成の大横綱」貴乃花と比べては気の毒ではあるが、稀勢の里にどこまで気力、体力、そして力士としての生命力が残っているか。館内の悲鳴と歓声のボルテージはさらに上がりそうだ。(時事通信社・若林哲治)<
(2018.9.16配信)
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