稀勢の里 苦闘の日々

耐えて9勝目、白鵬と横綱初対決へ

 ◆御嶽海の攻勢、半身でしのぐ

 大相撲秋場所12日目(9月20日、東京・両国国技館)、注目の稀勢の里は御嶽海を何とか寄り切って9勝目を挙げた。13日目は横綱になって初めて実現する白鵬戦。この日、鶴竜が連敗して全勝の白鵬に続く1敗力士が消えたが、稀勢の里が一矢報いれば、優勝争いの興味もつなぐ一番になる。
 御嶽海に右上手を引かれ、左半身の苦しい体勢。土俵中央で回りながらしのぎ、左ですくって振りほどく。再び左四つ。また同じような体勢になりかけたが、攻め手のない御嶽海を左で起こしながら、ようやく右上手を引いて寄り切った。
 前日は逸ノ城にいいところなく押し出された稀勢の里。御嶽海は前日まで4連敗で大関とりが絶望になった。目まぐるしい展開に観客は大いに沸いたが、ともに気力を振り絞るのがやっとの、もどかしい相撲だった。
 昔から、相撲記者でも10日目から12日目あたりに疲れのピークがやって来る。今の稀勢の里を襲っている心身の疲労は、進退を懸けた横綱の経験がなければ分からない。努めて無表情を保っても、疲れの色は見て取れた。
 支度部屋ではこの日もほとんど口を開かず、「落ち着いていたか」「体は動いているか」の問いに「まあ…」と続きが聞き取れないような声で返しただけ。それでも横綱として最低限の及第点が欲しい稀勢の里にとって、大きな9勝目になった。

 ◆60度目の白鵬戦

 13日目は白鵬戦。横綱になって10場所目で横綱同士としての顔合わせが実現する。今の幕内で最も観客が沸く好取組が1年半もなかったのは、ファンにとっても不幸と言うほかない。
 過去の対戦成績は白鵬の43勝、稀勢の里16勝。最後の対戦は稀勢の里が初優勝と横綱を射止めた昨年初場所の千秋楽。稀勢の里が土俵際のすくい投げで逆転勝ちして、白鵬戦3連勝とした。8年も前のことだが、双葉山の不滅の69連勝に迫っていた白鵬の連勝を、稀勢の里が63で止めたこともある。
 迎え撃つ白鵬はこの日、左前まわしを引いて出てくる栃ノ心の力を利用するように、右から肩透かし気味のすくい投げ。技ありの相撲で仕留め、1人初日から全勝を守った。
 稀勢の里戦について「楽しみだね」。相撲に関してはあまり「楽しみ」と言わない横綱だが、「あしたは特別」。「待っていたか」と聞かれて「そんなところ」と返した。受け答えにも余裕があるが、土俵に上がれば、稀勢の里も残る力の全てをぶつけてくるはず。これまで何度も食ってきた土俵際の逆転も警戒しなければならない。
 稀勢の里が勝てば、白鵬の独走に待ったをかけ、優勝争いにも影響を与えるが、今場所は相手となかなか立ち合いが合わない取組もあった両者。力士の範たる横綱として、1回で呼吸を合わせるきれいな立ち合いも望まれる。今場所最も大きな歓声を浴びて、60度目の対戦だ。(時事通信社・若林哲治)
(2018.9.20配信)

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