稀勢の里 苦闘の日々

手拍子の中、非情の判定

 ◆87年ぶりの不名誉

 大相撲九州場所4日目(14日、福岡国際センター)、横綱稀勢の里が栃煌山に物言いの末、軍配差し違えで敗れた。横綱が初日から4連敗したのは87年ぶり、15日制では初めての横綱ワースト記録。吹っ切れたような出足に望みが見えた一方、厳しい声も聞こえ始めた。

 勝負審判の協議が続く間、4日連続満員御礼の観客から、「軍配通り」の決定を促すような、手拍子が起こった。阿武松審判長(元関脇益荒雄)が、緊張からか何カ所もつかえながら協議結果を発表する。「栃煌山の勝ちと決定しました」。館内に悲鳴が響いた。
 休場かと思われたこの朝。師匠の田子ノ浦親方(元幕内隆の鶴)は3日間の相撲内容を「小さい相手に左を無理に突っ込もうとしたりして、相手に合わせちゃってる」と話し、前日の北勝富士戦で極端に右足を引き、左半身で取った点については「受けにいっているような…」とみていた。
 師弟の間で同じ話をしたかどうかは分からないが、この日は立ち合いに踏み込み、左をのぞかせると右で抱えて一気に出た。左は深く差せなかったが、構わず出る。
 だが、3連勝で気を良くしていた栃煌山が左ですくって反撃。これで稀勢の里は体が傾いて上体と腰が高くなったが、残すとそのまま再度、寄り立てた。土俵際、栃煌山が「絶対先に(土俵に)つかないように」と捨て身の左すくい投げ。上体が浮いていた稀勢の里は左肩から落ち、栃煌山は土俵から飛び出した。

 ◆紙一重の勝負にも敗因
 軍配は稀勢の里に上がったが、物言い。横綱の肩が落ちるのが、栃煌山の左足が徳俵の角から浮いて体が飛ぶのよりもほんのわずかに早く、行司差し違えの判定が下った。
 紙一重の勝負。前日までと違って左差しだけにこだわらず、右も使った。5日目以降に光明が見えたとも言える。だが、一度すくわれて体が伸びたまま出たこと、右の肘が開く悪い癖が出てすくわれたことなど、やはり負けに「不思議の負け」はなかった。横綱が大関以下に負けて「善戦」とは言わない。
 不戦敗を除いて横綱が初日から4連敗したのは戦前の宮城山以来、87年ぶり。15日制定着以降では初めての不名誉な記録となった。3連敗から勝ち越した経験がある芝田山親方(元横綱大乃国)は「人が認める、認めないじゃなくて自分がやり切れるかどうか。周りがとやかくいっても仕方ない。8勝でいいじゃないか」と見守るが、進退を懸けた先場所と違って、親方衆や関係者の間には厳しい本音が広がり始めた。
 「マスコミが、3連敗が過去に何人いるなんて書くから、まだ許されると思うんじゃないの」「横綱は同情されたら終わりだということが分かっていないのでは」
 この日も、支度部屋では全く口を開かなかった稀勢の里。前夜同様、福岡県大野城市の部屋宿舎へも報道陣が詰め掛けたが、師弟は対応しなかった。(時事通信社・若林哲治)(2018.11.14配信)

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