稀勢の里 苦闘の日々

大事な初日に「左」で墓穴

 ◆稽古で「封印」したはずが

 大相撲初場所が13日、東京・両国国技館で始まり、進退を懸ける横綱稀勢の里は小結御嶽海に押し出され、極めて厳しい滑り出しとなった。
 立ち合い負けした。頭で当たりはしたが、御嶽海より頭も腰も高く、踏み込みもやや遅かった。そしていきなり左差しを狙う。下手を取れず、右は抱えたままで出ようとしたが、御嶽海に左の腕を返された状態で、前に出ようとしても圧力が掛からない
。 左をさらに深くこじ入れようとしたが、こだわり過ぎてはいけないと思ったのか、我慢できなかったのか。差し手を抜いて左から突き落としにかかったことで、かえって相手を呼び込む形になり、最後は残す腰もなく押し出された。
 支度部屋でほとんど言葉を発しなかった稀勢の里。「左差し狙いだったか」との問いに、口元が「はい」と動いた。だが、場所前の稽古ぶりは違った。部屋での大関高安との稽古では右上手を狙いにいく場面もあり、横綱審議委員の稽古総見や二所ノ関一門の連合稽古では差し手やまわしにこだわらず、突き押しを繰り出しながら出足に集中した。
 もともと右上手を取るのが遅く、左差しに頼るため、半身になりがちで、対戦相手たちには、左さえ差させなければ勝機があると分かられている。特に先場所はその弱点がはっきり表れ、初日から4連敗して休場した。
 場所前の稽古は、そうした点を意識したものと見えたが、昔から言われるように、稽古場と本場所は違う。負けられない初日。過去6勝1敗と合い口のいい相手。左差しで組み止めて出ようと思ったのだろうか。先場所までと同じような「左頼み」で墓穴を掘った。これで昇進後、出場した場所の初日は2勝6敗。常に優勝争いを義務付けられる横綱としては、あってはならない数字だ。
 この日は横審の本場所総見だった。先場所の休場を受け、ようやく3種ある決議のうち最も弱い「激励」を出した横審。今場所もしも出場できないとなれば「引退勧告」か「注意」も考えなければならないところだった。ひとまず出場に踏み切ってくれてほっとしたところで、初日黒星。北村正任委員長は「まだこれからあると言っても、全うできるか不安」、都倉俊一委員は「言葉もありません。全員期待しているんだけど」と、ともに厳しい表情だった。
 2日目の相手は逸ノ城。稀勢の里戦ではよく前に出てくる。この日も高安を終始攻めて突き出した。「修正して、あしたからですか」との問いに、「そうですね」と稀勢の里。雰囲気でそう答えただけかもしれないが、事は技術的な修正どころではない。土俵人生の全てを懸けたぶちかまし。何もかもかなぐり捨てた出足。たとえ最後の1番になっても、人々の記憶に刻まれるような相撲を取る以外にないと、ファンも相撲界の人たちも思っているに違いない。(時事通信社・若林哲治)(2019.1.13)

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