◆和製横綱、短い幕切れ
2017年初場所後、ファンが待ち焦がれた日本出身横綱として稀勢の里が19年ぶりの昇進を遂げた時、誰もこんな最後は想像しなかった。その翌場所で負った左胸などの大けがから再起できず、横綱としてわずか皆勤2場所での引退。約17年の力士人生に幕を下ろした。
綱とりは30歳で成就。高齢での昇進とは言えたが、白鵬をはじめとするモンゴルの先輩3横綱に故障が目立つようになる中、大きなけがを抱えず、体力自慢の稀勢の里が角界の中心を担っていくものと思われた。「自分を信じてやるしかない。相撲協会のためにも、これから伸びてくる若い力士を引っ張り上げる立場。人間としても成長していきたい」と誓っていただけに、早過ぎる引退が惜しまれる。
最近はめっきり少なくなった「中卒たたき上げ」。元横綱隆の里が師匠だった鳴戸部屋(当時)に入門し、猛稽古に耐え抜いて番付を駆け上がった。18歳3カ月での新入幕は貴花田(後の横綱貴乃花)に次ぐ年少記録。相手を一発で横向きにする左からの強烈なおっつけを生かした馬力十分の取り口は「大器」そのものだった。
モンゴル勢を筆頭に外国出身者が土俵を席巻。彼らに対抗する日本出身力士の旗手として、不祥事が相次いだ相撲界の人気回復の起爆剤として期待を集めるのは、ごく自然な流れだった。白鵬の連勝を63で止めたかと思えば、格下にあっさり負ける。そんな危うさも、ファンを引き付けた。
自らを「不器用」と評したことがある。師匠が急逝した直後の2011年九州場所で大関の座を引き寄せた後、5年の足踏みを経て番付の頂点を極めたが、痛めた左を補うように右を使えていたら、巻き返しへの活路は広がっていただろう。
「土俵上で良い姿を見せるのが仕事だと思っている。体が強くて経験があれば、何でもできる」。その言葉は横綱としては体現できず、結局はけがに泣かされた。もっと「横綱稀勢の里」を見たかった。(運動部)(2019.1.16)
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