稀勢の里 苦闘の日々

ただひたすら懸命に

 ◆昇進直後に重傷の不遇

 現役引退を決めた稀勢の里はすっきりとした表情で記者k会見場に姿を見せ、「一片の悔いもございません」と繰り返した。ただ、質疑が進むと目がうるみ、声は震えた。横綱として見たかった夢はもっとあったろう。無念の思いが涙となって、こぼれ落ちた。
 大関時代は休場わずか1日だった体力自慢が、新横綱で臨み2度目の優勝を果たした一昨年春場所で左胸などを大けがした。皮肉にも綱を張ってからけがに泣き、気が付けば年6場所制では横綱最長の8場所連続休場に追い込まれた。
 最大の武器だった左からの強烈なおっつけも影を潜め、「けがをする前の自分に戻ることはできなかった。このまま潔く引退するか、ファンの人たちのために相撲を取るのか、いつも稽古場で自問自答していた」。退路のない番付最高位としての深い苦悩があった。
 17年間の力士生活で誇れるものを聞かれると「一生懸命、相撲を取ったこと。ただそれだけ」と言い切った。今後は荒磯親方として後進の指導に当たる。自負と反省から「一生懸命相撲を取る力士、けがに強い力士を育てていきたい」。将来を託す第2の稀勢の里像は明確だ。(運動部)(2019.1.16)

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