◆兄弟子の使命感
土俵上での鋭い眼光からむきだしの闘争心が伝わって来る。モンゴル出身、朝日山部屋の朝日龍は身長182センチ、体重は約130キロで力士としては大きくないが、荒々しく力強い突き押し相撲が持ち味だ。昨年夏場所の初土俵から5場所で順調に幕下まで上がった。初場所は6勝1敗の好成績。優勝決定戦こそ石橋(現朝乃山)に敗れたが、「(相手が誰でも)土俵に上がれば自分の方が強いと思っている」と、自信もついてきた。
21歳の朝日龍には、兄弟子としての使命感がある。現在の朝日山部屋は元関脇琴錦の朝日山親方が2016年6月に尾車部屋から独立したばかりで、所属する力士は17年春場所の時点でわずか4人。幕下の朝日龍は番付最上位の部屋頭となっている。
もともと実直で稽古熱心、妥協を許さない性格だが、立場がより強い覚悟を植え付けた。「将来入ってくる若い衆に見せる、いい兄弟子でないといけない」。周囲にも厳しくなり、食事や水をこぼすなど礼儀作法を欠いた弟弟子を激しく叱りつける。春場所に初土俵を踏んだ朝日山親方の息子、松沢は「真面目でとても厳しい人です」と敬意を込めて話す。
◆夢は関取、親方のような
春場所は3勝1敗と白星先行で迎えたが、徳真鵬との一番は体の大きい元十両に突き押しが通じず、体勢が崩れたところで突っ張られて完敗。悔いが残る黒星となった。支度部屋に戻る途中、「くそ!」とじだんだを踏み、その後の取組も腰が高く、3連敗。惜しくも、初土俵以来初の負け越しを経験した。「勝ち越したかったなあ。負けて流れが悪くなっちゃったから。悔しい」。あまり笑わない朝日龍が、自嘲気味の笑みを浮かべた。
モンゴル相撲の経験があり、大相撲入りを志して来日。強豪の鳥取城北高に入ったが、卒業時には各部屋の外国人力士枠の問題があり、鳥取県体育協会で機会を待った。独立を考えていた朝日山親方と縁あって内弟子に。速攻が身上で「F1相撲」といわれ、「最強の関脇」とも呼ばれた親方の現役時代の映像をよく見るという。「親方のような力士になりたい。親方に褒められる相撲がしたい」と力を込める。
今はまだモンゴルに里帰りしたいとは考えない。「関取になる夢があるから」。来る日も来る日も伊勢ヶ浜部屋などへ出稽古に赴き、照ノ富士らモンゴルの先輩力士の胸を借りている。
◆朝日龍(あさひりゅう) 1995年4月22日生まれ、本名・バドゾリグ・デンゼンサムブー。モンゴル・ウランバートル出身。朝日山部屋。2016年夏場所初土俵。最高位は東幕下23枚目。182センチ、130キロ。
◇最強の関脇 戦後に「最強の関脇」と呼ばれたのは長谷川と琴錦。長谷川は昭和40年代に活躍し優勝1回。琴錦はスピードがあり奇襲も見せて、若貴時代に2回優勝、三賞を18回も受賞した。2人とも大関昇進のチャンスがありながら運にも恵まれず逃している。角界関係者から十分に大関の力があったと認められ、この「称号」で呼ばれるが、強い関脇は大関になることが多いので、長谷川は引退後も「あまりうれしくないよ」と言っていた。
(データなどは2017年春場所終了後現在)
(時事通信運動部相撲担当・木瀬大路)
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