大相撲 新星探査

琴太豪 度重なる試練乗り越え

 ◆新十両目前の悪夢
 2015年名古屋場所前、琴太豪に突然の試練が訪れた。「左目の視界の上の方に影がかかっているな」。念のため病院に行くと網膜剥離と診断された。激しい稽古でいつの間にか起こった病だった。この場所は自己最高位の東幕下8枚目。いよいよ新十両を狙える地位だったのに、全休せざるを得なかった。
 再起を図った翌場所も不運に見舞われた。3番相撲で相手の小手投げを受けた際、左肘の靱帯を断裂し、途中休場。その後の2場所も全休した。
 この間、他の力士たちの稽古風景を稽古場の隅の方でただ見詰めるしかできない日々が続いた。「稽古しているときは、『早く休みたい』と思っていたのにな」。むなしさばかりが募り、「本当にだめだ」と、心が折れそうになった。
 苦境で支えになったのは師匠の佐渡ケ嶽親方(元関脇琴ノ若)や部屋の力士らが掛けてくれる励ましの言葉だった。「毎日の何気ない言葉が力になった」。肘の曲げ伸ばしができず、一時は「菓子の袋を手で開けることができない」ほど握力が落ちたが、週3度のリハビリをひたすら繰り返した。
 ◆九州で晴れ姿を
 復活を期す地道な日々の中で、唯一の息抜きが韓流ドラマの観賞だった。「見ているときは時間を忘れる」。録画して毎日欠かさず見ているという。
 番付は大きく落ちたが、休場明けの昨年春場所は東序二段44枚目で全勝優勝。続く夏場所も三段目で全勝した。そして西幕下16枚目まで戻った今年夏場所は12日目の6番相撲に勝って4勝2敗と勝ち越し決定。右四つ、左上手を引いての寄りに磨きをかけており、「立ち合いでしっかり踏み込んで、土俵際の詰めもしっかりやれるように、足の運びも意識したい」と意気込む。大分県出身。「九州場所までには十両に上がれるようにと思っています」。ご当所での晴れ姿を思い描く。

 ◆琴太豪(ことだいごう) 1993年1月14日生まれ、本名・河津大飛(かわづ・だいき)。大分県日田市出身、佐渡ケ嶽部屋。2011年技量審査場所初土俵、最高位は東幕下8枚目。189センチ、132キロ。

 ◇見取り稽古 相撲や柔道などで他人の稽古を観察して学ぶこと。相撲は稽古場に土俵が1面しかないため見取り稽古の時間が長く、見て学び取る力が重要になるが、けがのために相撲を取りたくても取れない時はつらいものがある。なお、さぼって土俵へ入ろうとせず、羽目板の前に立ってばかりいることを、「板」に「張り付く」ことから「カマボコ」と言う。
 (データなどは2017年夏場所現在)
 (時事通信運動部相撲担当・大野周)

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