◆尊敬する師匠に励まされ
初土俵から3年余り後の2015年九州場所。魁渡は序ノ口の土俵にいた。この年の初場所中に左膝の靱帯(じんたい)を断裂するなどの大けがを負い、4場所連続で休場し、幕下から一気に降下したためだ。
入門したばかりの新弟子に交じって閑散とした館内で取る自分に嫌気が差したこともあった。「三段目の辺りで出たかったし、本当に序ノ口からやるのは嫌だった」と明かす。それでも、少しでも万全の状態を取り戻せるまで我慢したのは師匠の浅香山親方(元大関魁皇)から「諦めなくていい。地道にやっていこう」と励まされたのが大きい。
中学3年の冬に知人の紹介で知り合った魁皇は憧れの存在だった。高校卒業後と考えていた角界入りの時期を中学卒業後に早めたのも、現役を引退してから半年ほどしかたっていないのに浅香山親方が熱心に勧誘してくれたから。「親方も現役時代に膝のけがに苦しんだ方というのもあるし、自分にとっては医者よりも言われることが分かる」。心から尊敬する師匠に支えられ、地道にリハビリを重ねた末の再出発だった。
◆久々「佐渡出身」の関取へ
新弟子の頃より体重は30キロ以上増え、180キロ、160キロとたくましい体つきになってきた。苦しくなると引いてはたく癖があるが、「思い切り当たって、どんどん前に出ろ」と師匠に口酸っぱく言われる通り、持ち味の突き押しを磨いている。
西幕下42枚目で臨んだ今年の名古屋場所は5勝2敗。まずは東幕下20枚目の自己最高位を更新し、1973年夏場所の大錦以来となる新潟県佐渡市出身の十両昇進を狙う。「ここ1年、2年くらいが勝負になる。親方の言うことを聞いて、ちゃんと基礎運動からやる。関取になって恩返しできれば」。場所後の夏巡業では、幕下ながら故郷の島で行われた興行に参加。その思いは一層強くなったことだろう。
◆魁渡(かいと) 1996年6月19日生まれ、本名・萩原頌胆(はぎわら・しょうた)。新潟県佐渡市出身、浅香山部屋。12年夏場所初土俵、最高位は東幕下20枚目。180センチ、160キロ。
◇番付降下 大相撲の世界では最高位の横綱を除き、負け越しや休場が続くと番付はどんどん落ちてしまう。大関から十両まで落ちて相撲を取った力士には大受、雅山、把瑠都がいる。1970-80年代に活躍した琴風は大関候補の立場から膝の故障で幕下まで陥落。そこから復活して大関昇進を果たし、2度の幕内優勝も遂げた。70年代にハンサム力士として人気を集め、後にタレントとしても活躍した龍虎もアキレスけんを断裂して幕下まで落ち、再起を果たして再び幕内の土俵を沸かせた。
(データなどは2017年名古屋場所終了現在)
(時事通信運動部相撲担当・大野周)
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