◆怒濤の19連勝
幕内の宇良に代表されるように、小柄な関取が大きな相手を破る取り口は爽快で見応えがある。三段目で活躍する炎鵬は169センチ、96キロ。幕下でいま最も期待が大きい小兵力士だ。
低い当たりとスピードある攻めが目を引く。秋場所7日目。自分より30キロ近く重い竜虎の右足を抱え、足取りで土俵の外へ追いやった。さらに9日目は、一木を低い当たりから休まず攻めて圧倒し、デビューから19連勝。兄弟子で同じく小兵の幕内力士、石浦の記録に並び、「緊張したけど、ひとつの目標だったので良かった」と照れくさそうに話した。
その後、序ノ口デビューからの連勝を21に伸ばし、7戦全勝同士の優勝決定戦も制して序ノ口、序二段、三段目と3場所連続優勝を遂げた。
本人が短所に挙げるのは食の細さ。2017年春場所で初土俵を踏み、序ノ口、序二段と連続優勝したが、順調な出世と裏腹に体重はわずか3キロ増えたのみ。「他の力士と比べたら全然。ご飯はどんぶり一杯でおなかいっぱい」と悩みを訴える。
◆誇りある大横綱の弟弟子
集中する方法は人それぞれで、勝ち星を極力意識しないよう努める力士も少なくない。そんな中、通算勝利など数々の記録を塗り替えることをモチベーションとする兄弟子の横綱白鵬のスケールの大きさが、炎鵬にも影響を与えている。「本当にすごい。僕もそんな記録をつくれるような力士になりたい」と尊敬の念を込めて話す。
角界入りを決意したのも白鵬がきっかけだった。金沢学院大時代に世界相撲選手権の軽量級で2連覇を果たし、相撲を続けるか悩んでいたところに白鵬から勧誘されたという。「断れないですよ」と笑う炎鵬。しこ名も白鵬が「体が小さいから気持ちを燃やせ」という意味を込めて命名した。
アマチュア時代の実績と大横綱も称賛した俊敏な動き。白星を積むごとに注目は増していくが、「やってやろうという気持ちになる」。笑顔が似合う快活な若武者は、重圧を正面から受け止める心の強さを秘めている。
◆炎鵬(えんほう) 1994年10月18日生まれ、本名・中村友哉、石川県金沢市出身、宮城野部屋。17年春場所初土俵、最高位は西三段目18枚目。169センチ、96キロ。
◇小兵・軽量力士 体重区分のない大相撲の世界は、文字通り「無差別級」。ゆえに、大型力士の優位は否めず、力士たちは太ろうと努力する。そんな「大型化」時代にあって小兵・軽量力士たちが鋭い動きや技の切れ味で健闘すれば、当然のように人気を集める。第44代横綱の栃錦、第49代横綱の栃ノ海らは軽量ながら技を磨いて最高位を極めた。1970年代に活躍した元関脇鷲羽山は100キロ強の体で土俵を動き回り、「ちびっ子ギャング」と呼ばれた。初代の大関貴ノ花は身長はあったが、体重は100キロそこそこ。驚異的な粘り腰を生かした「サーカス相撲」で大型力士に対抗した。
現在解説者を務める元舞の海は170センチ。「技のデパート」の異名を取り、2メートルを超える横綱曙を相手に演じた名勝負は鮮烈な印象を残す。元大関の旭国、足技得意の栃剣、元小結の智ノ花らも記憶に残る小兵力士だ。現在は宇良、石浦らが土俵を沸かせている。
(データなどは2017年秋場所終了現在)
(時事通信運動部相撲担当・木瀬大路)
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