大相撲 新星探査

一山本 遅れてきたホープ、開花目前

 ◆年齢制限緩和の適用第1号

 一山本は中大卒業当時、プロに進む気がなかった。「自信がなかった」。学生時代に相撲で目立った成績を残せなくても、地元の北海道福島町役場で働きながら、子どもたちに相撲を教えていければ満足できると思っていた。
 そんな考えを改めたのは2016年10月4日。岩手国体に北海道代表で出場し、個人決勝トーナメント2回戦で敗退した時だった。「あと1勝できていれば、全日本選手権の出場権を得られるベスト8に入れた」。大学時代も届かなかったアマチュア相撲最高峰の大会にあと一歩で及ばなかった悔しさは、もう一度「真剣にやってみたい」という思いに変わり、プロで勝負しようと決意した。
 この時23歳。従来であれば、新弟子検査の受験資格に定められた「23歳未満」の年齢制限を過ぎていたが、時を同じくして、一定の競技実績があれば「25歳未満」まで入門できるよう規定が緩和された。「チャンスを頂いた。挑戦してみたかった」。17年初場所で新弟子検査を受け、年齢制限の緩和適用第1号力士となった。

 ◆病床の師匠に吉報を

 突き押しで果敢に攻め、序ノ口は7戦全勝優勝。その後も3場所連続で6勝1敗と好成績を収めた。「相撲人生は長くない。人より遅く入った分、人より早く上がらないと」と自らを追い込む。
 自己最高位の東幕下21枚目まで上がった初場所では、6場所連続勝ち越しとなる5勝2敗。順調に出世を続ける中、頭に浮かぶのは昨年10月に倒れ、一時意識不明の重体になった師匠の二所ノ関親方(元大関若嶋津)のことだ。四つ相撲の師匠と取り口は異なるが、身長186センチ、132キロと細身の体つきは「南海の黒ヒョウ」と呼ばれた師匠の現役時代と重なる。
 突き押しというとアンコ型のイメージが強いが、かつての横綱佐田の山のように、ソップ型で激しい突き押しを武器にした力士もいる。「いつも引いて怒られるから、前に出る相撲を見せたい」。リハビリに励む師匠を元気づけるためにも、関取経験者がひしめく幕下上位で臨む3月の春場所は徹底した突っ張りで勝負に挑む気構えだ。

 ◆一山本(いちやまもと) 1993年10月1日生まれ、本名・山本大生(やまもと・だいき)、北海道出身、二所ノ関部屋。17年初場所初土俵。186センチ、132キロ。

 ◇新弟子検査 力士になりたい人は、入門する部屋が決まってから、新弟子検査を受ける必要がある。検査は年6回、本場所前に行われ、受検できるのは義務教育を修了し(春場所前の検査は中学卒業見込みでよい)、23歳未満までの男性。アマチュアで一定の実績があれば25歳未満まで受けられる。身長167センチ、体重67キロ以上の体格基準(春場所前の中学卒業見込み者は165センチ、65キロ)を満たし、健康診断で問題がなければ合格。その時の本場所で初土俵を踏む。体格基準に届きそうにないからと、頭のてっぺんにシリコン注射をしたり、水をたらふく飲んだりして受検した若者もいた。しばらく部屋でたくさん食べる生活をして太ってから受けることもある。
(データなどは2018年初場所終了時)
(時事通信運動部相撲担当・大野周)

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