◆当たりの強さは一級品
昇進力士が出た部屋は、他の力士も刺激を受けて活気づく。新大関栃ノ心が誕生した春日野部屋にも、親方衆が飛躍を期待する若手がいる。その一人が栃清龍だ。身長174センチ、体重128キロと決して体は大きくないが、立ち合いの鋭い当たりが武器で、素質は十分。部屋付きの待乳山親方(元小結播竜山)は「当たりは言うことない。いいものを持っている」と大きな期待を寄せている。
自己最高位の西幕下15枚目で迎えた夏場所は2勝5敗に終わり、「攻め切れない部分があった」と振り返ったように引く相撲が目立った。待乳山親方は「稽古場のような相撲が取れれば勝てるが」と首をかしげつつ、「当たった後の攻めがない。あれでは持ち味が生きない。相撲が甘い」と課題を指摘した。
幕下上位になれば体の大きな相手や相撲のうまい相手が多く、立ち合いの当たりだけでは勝てない。栃清龍はまだ二の矢、三の矢が乏しく、鋭く当たった後の攻めが遅いため、相手からすれば立ち合いの圧力さえ止めてしまえば怖さがない。「はず押しで持っていくなど考えていかないと」とは待乳山親方。当たった際の圧力を生かした素早く厳しい攻めが、今後の飛躍のカギとなる。
◆「地元」で再挑戦の足場を
岐阜農林高相撲部で活躍し、プロの初土俵を踏んだのが2014年春場所。以来、着実に力をつけてきた。番付を上げてきた裏には兄弟子の存在もあった。稽古場では栃ノ心にも胸を借り、重くて強い体にぶつかり懸命に押している。「攻められるようになってきた。胸を出していただいてありがたい」と新大関との稽古による成長も実感している。
夏場所は負け越したが、その分、課題がより明確になるなど収穫も大きかった。次の名古屋場所はいわば「準ご当所」。「やっぱり前に出る力をつけていきたい」。まずは十両昇進を狙える地位へ戻れるよう、持ち味を生かした相撲を取るために暑い名古屋で汗を流す。
◆栃清龍(とちせいりゅう) 1995年4月26日生まれ、本名長尾勇気(ながお・ゆうき)。岐阜県出身、春日野部屋。174センチ、128キロ。2014年春場所初土俵。最高位は西幕下15枚目。同じ部屋の栃岐岳(三段目)は兄。
◇はず押し 相手の脇の下や胸、腹などを押す相撲の基本技術の一つ。手のひらを相手の体に当てる際、親指とそれ以外の4本指の間を開け、「八」の字を逆にした形で下から押し上げるように攻める。弓矢を射るときに、弓弦にあてがう側の「八」の字形の部分を「矢筈(やはず)」と呼び、押すときの手の形が似ていることが「はず押し」の語源だという。1925年に現在の春日野部屋を興した横綱栃木山は、はず押しの名人と呼ばれ、部屋伝統の技術でもある。
(データなどは2018年夏場所終了時)
(時事通信社運動部相撲担当・酒谷 裕)
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