◆連合稽古で押し相撲に進境
横綱大鵬の孫、納谷が関取目前まで迫ってきた。自己最高位の東幕下22枚目で迎えた夏場所は、突き押しで相手を圧倒する相撲が多く6勝1敗。7月の名古屋場所は幕下上位で迎える。「焦らなくなったというか、相手がよく見えている。負けたらどうしようとか、そんな気持ちがなくなった」と手応えを感じている。
昨年初場所の初土俵から順調に番付を上げたが、幕下に昇進した同年秋場所で3勝4敗と初めて負け越した。腰が高く、四つに組むと強引な投げに頼っていた。その後も相撲っぷりは変わらず九州場所、初場所はともに4勝3敗。勝ち越したが「思ったようにいっていない」と表情がさえない日が多かった。
そんな納谷にとっての転機は春場所前の連合稽古だった。所属する大嶽部屋が二所ノ関一門となり、この場所前は幕下のさまざまなタイプの力士と手合わせできたという。「最初は馬力でかなわなかったけど、徐々に押しで勝てるようになった。押しで勝てるなと思えたことが大きかった」と、きっかけをつかんだ。
迷いが取れた納谷の相撲っぷりは春場所から一変した。188センチ、170キロの体格を生かし、何が何でも前に出ることを貫いた。立ち合いで押し込まれても、突かれても簡単に引くことなく、押しに徹した。「組まなければ負けない。押しなら勝てる」。すっかり自信をつけて6勝1敗。また、春場所前に新弟子が入ってきたことも大きかったようで「納谷さんって大したことないな、と思われたくないので」。そう言って笑みをこぼすなど、壁にぶつかっていた時とは違い表情も明るくなった。
◆貴景勝の付け人に
夏場所も春場所同様に前に出て5連勝。立ち合いで相手にしっかり圧力が伝わっていたという。最終的には2場所続けて6勝を挙げ「先場所よりも全然、内容が良かった」。埼玉栄高の同級生の琴手計や塚原が幕下で奮闘しており、後輩の北の若も入門するなど、競争相手の存在もいい方向に作用している。
さらに、夏場所は貴景勝の付け人を務める機会にも恵まれた。大関がけがで休場したため15日間とはいかなかったが、学ぶことは多かったという。取組前の様子について「気持ちの持っていき方がすごい。無駄なことをしていなかった」と驚く。相撲についての助言も受け、取組に生かしたという。
入門時には2年で十両昇進という目標を掲げていた。壁を乗り越えた今なら、達成も不可能ではなさそう。それでも先を見過ぎず一番一番の心構えは変わらないようで、「来場所もしっかりと集中して頑張りたい」と力強く言い切った。
◆納谷(なや) 2000年2月14日生まれ、本名納谷幸之介(なや・こうのすけ)。東京都出身、大嶽部屋。188センチ、170キロ。最高位は東幕下22枚目。祖父は元横綱大鵬、父は元関脇貴闘力。埼玉栄高3年の17年国体では少年の部の個人、団体で優勝した。
(記録などは2019年夏場所終了現在)
(時事通信相撲担当・酒谷裕)
◇連合稽古 相撲界では本家と分家などの縁でつながった複数の相撲部屋が「一門」というグループを形成しており、現在は出羽海、高砂、二所ノ関、時津風、伊勢ケ浜の五つがある。かつては同門の力士は対戦しない一門別総当たり制で、巡業も一門ごとに興行を行っていたため、強豪力士や人気力士が育つと一門の隆盛につながったため、連合稽古は一門をあげて力をつける鍛錬の場だった。現在も幾つかの一門では連合稽古をしているが、同門でも部屋が違えば対戦する部屋別総当たり制の現在は、稽古で手の内を見せない力士や、せっかく多彩な顔触れが集まるのに同じ相手としか稽古しない上位力士がいて、疑問を呈する親方もいる。
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