◆「電車道」でつかんだきっかけ
127キロは今日の力士では軽量だが、俊敏さを生かした突き押しが白石の武器だ。2019年夏場所、三段目付け出しで初土俵を踏むと7戦全勝で優勝。4場所で一度も負け越さずに番付を駆け上がり、九州場所は西幕下35枚目で6勝1敗の星を挙げた。初場所は西幕下13枚目まで来て、新十両を射程に捉えている。
同い年に大関貴景勝や阿武咲がいる期待の世代。東洋大で実績を積み、「自分も挑戦してみよう」と元大関栃東の玉ノ井部屋へ入門した。「(プロは)こんなに稽古をするのか」と驚かされたという。玉ノ井部屋の朝稽古は、皆でそろってしこを踏む。普段は500回、場所中も200回ほどみっちり。大学時代は考えられなかった量をこなして基礎体力を鍛えられた。
小学生で相撲を始め、東京都葛飾区の道場へ通った。4歳年上にのちの十両翔猿がいた。芽が出ず悶々(もんもん)としていた頃、ある先輩が機敏に動き回る姿が印象に残った。「自分もやってみよう」。すると、勝てずにいた相手に「電車道で勝てた」。強烈な成功体験が現在のスピードを心掛ける取り口に導いた。
自分のスタイルと重ね合わせ、目標とするのは2歳年上の阿炎。「重い相手でも土俵外まで一気に持っていけるのは、すごい」。高校は異なるが、合同合宿でしばしば顔を合わせて面識があった。三役で活躍する先輩は、今も助言を与えてくれる貴重な存在だ。
◆アマの悪癖克服が課題
上を目指すために乗り越えねばならない課題がある。立ち合いで安易にはたく。「大学では1日10番ぐらいやることもあった。体力を温存することを考えていた」と苦笑い。アマチュアのトーナメントで勝ち抜くすべは、悪癖として体に染みついてしまった。師匠から「とにかく前に出る相撲を取れ」と言われ続ける。
九州場所の1番相撲も、引いて墓穴を掘った。「まずはしっかり出て押し込まないと。そうすれば自分が動くスペースもつくれる」。深く心に刻んで臨み、2番相撲からの6連勝につなげた。ただ、肝心の立ち合いは阿炎に言わせれば「まだ遅い」。改良しようと必死に取り組んでいる最中だ。
体重も増やしたい。一度には多く食べられない体質だから、食事の回数を増やして補っている。初場所は、経験豊富な元幕内力士ら幕下上位が相手。「相手が強いから仕方ないと思ったら駄目。優勝すれば関取に上がれる。全部勝つ」。ふてぶてしさも魅力の23歳は、自信たっぷりに言った。
◇白石(しらいし) 1996年4月17日生まれ、本名白石雅仁(しらいし・まさひと)、東京都出身、玉ノ井部屋。181センチ、127キロ。千葉・専大松戸高から東洋大に進み、2018年全日本選手権でベスト8。19年夏場所、三段目最下位(100枚目)格付け出しで初土俵を踏んだ。最高位は西幕下13枚目。
(記録などは2020年初場所番付発表時点)
(時事通信相撲担当・木村正史)
◇玉ノ井部屋 1990年に先代師匠(元関脇栃東)が春日野部屋から独立し、東京都足立区に興した。次男の2代目栃東が大関に昇進したほか、ブラジル出身の国東、隆濤らが関取に。2009年に先代が定年を迎え、07年に現役を引退していた現師匠が継承した。先代の出身地は福島県相馬市。11年の東日本大震災で甚大な被害を受けたが、震災前から行っていた夏合宿は今も恒例となっており、地元の人たちとの交流が続いている。
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