◆中学時代から磨いた出し投げ
相撲どころの青森県で生まれ育った長内にとっては、物心がついた頃から相撲道場が遊び場だった。「生活の中にずっと相撲があった」という環境に身を置き、じっくり培ってきた技のうまさが光る。現在では同県出身の力士が10人ほどに減った中、「早く番付を上げて地元に恩返しをしたい」と意気込んでいる。
得意とするのは「中学生の頃から磨いてきた」という出し投げ。身長174センチで線も細いが、体格差を補うすべとして習得に励んできた。下半身は粘り強く、ぐっと腰を下ろして鮮やかに仕留める取り口が目を引く。技能賞を2回獲得した師匠の高砂親方(元関脇朝赤龍)は、「私とちょっと似ている相撲を取る。指導していくのが楽しみ」。長内が技巧派として大成する未来を思い描いている。
昨年春場所で初土俵を踏んだ当時は、部屋の幕下力士には全く歯が立たなかったという。そこで、師匠からは「まずは押して、攻めながらまわしを取るように」との指導を受けた。立ち合いで重さを伝えるべく、「自分を追い込むように、いっぱい食べてきた」。圧力も徐々に備わり、序二段と三段目でそれぞれ7戦全勝。今年春場所、入門1年で幕下に駆け上がった。
◆コロナで残った相撲への思い
近大での学生時代は体重別の大会で優勝経験があるものの、全国学生選手権ではベスト8が最高。付け出しの資格を得るほどの実績は得られなかった。就職も選択肢に入れていたところで、世の中が新型コロナウイルス禍に見舞われた。他競技の例に漏れず、「大学の大会がどんどんなくなっていった。自分の中にしこりみたいなものが残っていた」。
進路を決めるに当たり、生きがいとしてきた相撲を不完全燃焼のまま終えていいのかと自問自答を重ねた。家族の後押しもあって「人生に悔いを残したくない。大相撲で自分がどこまでいけるか挑戦してみよう」。きっぱりと腹は決まった。
朝乃山の存在も高砂部屋に入門する決め手になった。近大の5年先輩に当たり、大学の稽古場ではOBとして胸を出してもらったことも。自身の兄が相撲部で同期だった縁もあり、目を掛けてもらってきた。体つきは違うが、部屋の兄弟子となった朝乃山への強い憧れを抱いている。
「欲張りではあるけど、スピードだけでなく力強さも持っている力士になりたい」という。夏場所は2勝、名古屋場所は3勝と幕下上位でもがいた。理想にたどり着くまでの道のりは長いが、精神面でも粘りのある東北男児。「一歩一歩やるしかない」と足元を見据えている。
◇長内(おさない) 1999年3月1日生まれ、本名長内孝樹(おさない・こうじゅ)、青森県出身、高砂部屋。近大から2021年春場所初土俵。174センチ、116キロ。最高位は今年夏場所の東幕下10枚目。
(記録などは名古屋場所終了現在)
(時事通信相撲担当・木村正史、写真は同・伊藤晋一郎)
◇出し投げ まわしを取った手と反対側の足を引き、体を開いて相手を引きずったり前に出したりするように打つ投げ技。相手を土俵にはわせたり、泳がせて体勢を崩したりするのが狙い。上手の場合は肘を締めて相手の差し手を殺し、下手の場合はまわしを浅く引き、引き付けを利かせて打つ。体勢のつくり方、打つタイミングなどが重要で、技能派力士に使い手が多い。同じ青森県出身では栃ノ海、旭富士(現伊勢ケ浜親方)、安美錦(現安治川親方)らがいる。力士が大型化し、四つ相撲が減った現在では使う力士が少ない。
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