2016スポーツ・クローズアップ

【車いすテニス】王者国枝、苦渋の決断

 ◇守った4大会連続メダル

 日本勢同士が対戦したリオデジャネイロ・パラリンピックの車いすテニス男子ダブルス3位決定戦で、国枝慎吾(32)=ユニクロ=の戦略はおよそ王者らしくなかった。三木拓也(トヨタ自動車)真田卓(フリー)組の捨て身の強打に対し、パートナーの斎田悟司(シグマクシス)とともに後ろに下がり、山なりのボールを深く返し続けた。

 堂々と打ち合う選択肢もあったはずだが、テニスは確率のスポーツ。攻めていけば先にミスするリスクも高まる。負ければ、2004年アテネ大会以降の3大会でいずれかの種目で手にしてきたメダルが途切れる。どちらの戦法がより勝利に近いのか。プライドを捨て、守りに徹した。狙い通り、先に集中力が切れたのは相手だった。

 思い描いたシングルス3連覇ではなく、ダブルスの銅。それでも、重圧から解き放たれ大粒の涙が流れた。「やりたくないプレーだったが、割り切った。内容より勝つことが大切だった」

 15年秋、右肘に違和感を覚え、16年4月に手術を受けた。戦列に復帰したのは8月下旬。丸1年も満足なプレーができない間に、世界の車いすテニス界では急速に若手が台頭していた。

 リオ大会のシングルス決勝は当時24歳と18歳の英国勢同士が頂点を争った。戦い方も変わり、ワンバウンドのスピードあるラリーやネットプレーが大幅に増加。今回のような戦い方では次の東京大会で勝てないことは、国枝自身が一番よく分かっている。「この銅は今後、心の支えになると思う。まだまだ若い選手には負けない」。第一人者としての自負を胸に、視線を先に向けた。(注=年齢、所属は12月現在)

新着

会員限定

ページの先頭へ
時事通信の商品・サービス ラインナップ