2016スポーツ・クローズアップ

【レスリング】吉田、致命的な首投げ

 ◇「意外な相手」に阻まれたV4

 日本レスリング協会の栄和人強化本部長は、今でもあの瞬間が頭から離れない。

 リオデジャネイロ五輪女子53キロ級決勝。吉田沙保里(34)=至学館大職=は、マルーリス(米国)のパワーに戸惑いながらも第1ピリオドは1-0とリードした。だが、第2ピリオド開始から約30秒、相手のタックルに苦し紛れの首投げで対応。セコンドを務めた栄強化本部長は「あ、危ない」と瞬時に思った。首投げは決まらず、バックを取られ逆転を許す。その後も形勢を逆転できず、五輪4連覇は夢と消えた。

 全盛期から力は落ちたとはいえ、試合運びのうまさは健在のはずだった。栄強化本部長は「リードしていたのだから、リスクのある首投げは必要なかった」と悔やむ。

 心理的な落とし穴があったのかもしれない。2015年の世界選手権準優勝のマットソン(スウェーデン)ら強豪がトーナメントの逆側に集まり、吉田は準決勝までの3試合に全て圧勝。そして、金メダルを争ったのはノーマークの相手だった。吉田は「決勝はマットソンだと思っていた。意外だった。気持ちでやられた」と認める。過去2戦2勝とはいえ、最後の対戦は4年前。力強くなっていた相手の攻めに慌て、本来の動きができないまま終わってしまった。

 コーチ兼任で現役を続けることになった現在でも、選手として4年後の東京五輪に挑戦するか決めていない。それでも、「やっぱり悔しい。あんなに大きな舞台で負けたのは初めて。もう一度やりたいと思うことはある」。実力を出せなかったリオの決勝。借りを返せるのは東京五輪しかないと分かっているから、引退に踏み切れないでいる。(注=年齢、所属は12月現在)

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