◇屈辱から一転、銀に貢献
気迫をほとばしらせて先頭に躍り出るとアンカーにバトンパス。走り終えた桐生祥秀(21)=東洋大=は、ウサイン・ボルト(ジャマイカ)と競り合うケンブリッジ飛鳥(ドーム)を鼓舞するように大声を上げた。
歓喜に沸いたリオデジャネイロ五輪男子400メートルリレーの銀メダル。バトンをつなぐ際の減速を抑えた日本独特の「アンダーハンドパス」が注目を集めた一方、個々に焦点を当てれば3走を務めた桐生の快走が光った。
個人種目の100メートル予選はスタートで焦り、10秒23で敗退した。だが、「リレーは別。引きずったら絶対駄目」と自らに言い聞かせ立て直した。8月19日のリレー決勝。2走の飯塚翔太(ミズノ)からバトンを受けると、「全員抜いてやろう」。混戦から抜け出し、ケンブリッジに託した。
日本は国内現役最速の100メートル10秒01を持つ桐生を、アンカーではなく曲線を走る3走に起用。「もともと左軸でアクセントを取る走り」(東洋大の土江寛裕コーチ)のため反時計回りがうまく、アンカーが勝負を懸け早めにスタートしてもバトンパスが乱れない器用さもある。決勝では通常より早いタイミングで飛び出したケンブリッジに桐生が難なく対応したことも、銀の要因になった。
実現はしなかったが、五輪前に日本オリンピック委員会(JOC)から日本選手団の旗手を打診された。20歳にしてスポーツ界に欠かせない主役の一人になった。桐生は「メダルを取ったのはうれしかったが、個人で結果を残せず情けない思いもした。来季はしっかり勝負したい」。喜びを分かち合った仲間はライバルでもある。冬が明けた後、日本人初の9秒台到達に再挑戦する。(注=年齢は12月15日現在)
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