特集 マスターズゴルフ

名勝負(7)2010年

 優勝したフィル・ミケルソン(米国)はホールアウトすると、グリーン脇にいたエイミー夫人と固く抱き合った。そのほおには涙が流れ、キャップの横には、乳がん撲滅キャンペーンのピンク色のリボンが付けられていた。

 なかなかメジャーで勝てなかったミケルソンが初めてその壁を破ったのが04年のマスターズ。待ち焦がれていたその勝利にも大きな意味があった。しかし、後になって振り返れば、本人にとってもマスターズ3勝目、メジャー4勝目を挙げた10年の大会がより深い感動をもたらしたのではあるまいか。

 前年の5月、エイミー夫人の乳がんが判明する。その直後には実母のメアリーさんも乳がんであることが分かった。相次ぐ手術。ミケルソンは一時ツアーを離れ、7月の全英オープンも欠場して夫人に付き添った。その夫人がまだ完全にはほど遠い体調を押して観戦に訪れたのが、10年のマスターズだった。

 1打差の2位から最終日をスタートすると、ボギーなしの67をマークして逆転。再び頂点に立った。圧巻はアーメンコーナーで見せた技術と集中力。12番ショートで6メートルのバーディーパットをねじ込むと、13番ロングではフェアウエー右の木と木の間、約1・5メートルの空間から放った約205ヤードの第2打を、ピン右1メートルにぴたりとつけるスーパーショットを見せて観衆の度肝を抜いた。

 「妻や子どもたちとともに、この幸せな瞬間を迎えることができて幸せだ。特に、夫婦として乗り越えなきゃいけないことがあったから…」。抱き合った2人を、会場にいたギャラリーが、テレビで観戦した多くのファンが祝福した。

 ミケルソンは果敢に攻めるゴルフを身上とする。リードしていても、手堅くまとめることを優先することなく、スコアを伸ばしにかかる。だから鮮やかな一発が多い半面、もったいないミスも少なくない。手堅さを重視し、守るときに守りを固めればメジャーでももっと勝てたかもしれない。しかし、豪快にバーディー、イーグルを狙っていくからこそ、そのゴルフは見ていて楽しい。

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