他のメジャー大会と違い、マスターズは毎年同じコースで争われるだけに、コースと相性のいい選手が有利になる。マスターズに2勝以上した選手のうち、ホートン・スミス(2回)、ジミー・デマレ(3回、ともに米国)、ベン・クレンショー(米国)、ベルンハルト・ランガ-(ドイツ)、ホセマリア・オラサバル(スペイン=以上2回)は、他のメジャーには勝っていない。オーガスタ・ナショナルに強かったということだろう。
84年にマスターズ初制覇を果たしたクレンショーにとって、2度目の優勝を遂げた95年の勝利は、レギュラーツアー最後の優勝だ。勝利を決めるバットを沈めたクレンショーが両手で顔を覆い、腰を折り曲げて泣き崩れたシーンは、マスターズの歴史の中でも名場面に数えられている。
直前の4大会中3大会で予選落ちし、2カ月間も70を切れない不調に苦しんでいた。それが、試合が始まると、不思議なほどに迷いが消えた。実は直前の日曜日に、6歳の時から指導を受けたテキサス州オースティンのティーチングプロ、ハービー・ぺニックさんが90歳で亡くなっていた。クレンショーは開幕前日の水曜日、1500キロ離れたオースティンに飛び、葬儀に参列した後、夜にオーガスタに舞い戻った。疲れが残っていたはずなのに、70、67、69、68の安定したラウンドを続け、デービス・ラブ(米国)を1打差でかわした。
開幕前の火曜日、キャディーのカール・ジャクソンさんからは「ボールの位置を少し内側にずらし、もっと肩を回すよう」助言を受け、苦しんでいたパットの感覚がよみがえったという。クレンショーは「あんなに強く冷静な気持ちで試合を戦えたのは初めてだった」と振り返る。何かが乗り移っていたかのような1週間。亡き恩師が導いてくれたとしか思えない勝利だった。
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