特集 マスターズゴルフ

名勝負(2)1986年

 優勝争いに役者がそろい、年齢を重ねた国民的ヒーローが、その中で最年長優勝を果たす。映画のシナリオのような展開となったのが、この年の戦いだった。

 マスターズの実況中継で知られる米国のアナウンサー、ジム・ナンツさんは当時若手。元名選手の解説者、ケン・ベンチュリから「きょう目撃したことを今後も決して忘れず、生かしていかなくてはいけない」と、この試合の放送に関われたことを、アナウンサー人生の大きな財産にするよう助言を受けたと述懐している。

 6度目の優勝を果たして最後に主役となる46歳のジャック・ニクラウス(米国)は、80年の全米プロを最後に、メジャーの勝利から遠ざかっていた。3日目を終え、首位のグレグ・ノーマン(オーストラリア)に4打差の9位タイ。当時、勢いのあったノーマン、セベ・バレステロス(スペイン)、ニック・プライス(ジンバブエ)、トム・カイト(米国)らが上位にひしめく状況では、とっくに峠を越えたベテランにとって、逆転優勝は夢のまた夢と思われた。

 しかし、コースを熟知した「帝王」が不可能を可能にした。圧巻は15、16、17番で見せたイーグル、バーディー、バーディーのチャージ。15番で2オンに成功してこの年、自身唯一のイーグルを奪う。これで集中力に磨きがかかったのか、池越えの16番ショートでは2メートルを沈めてバーディー。キャディーを務めていた長男のジャッキーは土壇場で見せた父親の集中力に「震えた」という。

 17番で左からの約4メートルを沈めて9アンダーまで伸ばすと、あまりに有名な歓喜のポーズが飛び出した。後を回ったカイト、バレステロス、ノーマンらはミスも出て伸ばし切れず、クラブハウスで待っていた46歳の優勝が決まった。

 最終日に65、しかも、後半9ホールで6打伸ばす30という離れ業。「18番グリーンに向かう途中、まだ試合が終わったわけでも勝ちが決まったわけでもないのに、涙がこみ上げてきた」。ニクラウスにとって、これがメジャー最後というだけでなく、レギュラーツアーで最後の優勝となった。

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