特集・懐かしの軍用機

艦上のガンファイター F8

 米海軍が1952年に示した超音速ジェット戦闘機の要求仕様に沿ってチャンス・ボート社が開発したF8クルーセダーは、ベトナム戦争で制空戦闘機として活躍した。海軍でもF8以降はマルチロール機が主流となったため、「最後のガンファイター」とも呼ばれる。原型機は1955年の初飛行で音速を突破、すぐさま海軍に制式採用が決まった。量産型の実戦配備が始まったのは57年で、プロジェクト着手から実用配備まで4年弱というのは、当時としても驚くべきスピード開発だった。だからと言って決して拙速な設計ではなく、高い飛行安定性が海軍と海兵隊のパイロットから強い支持を受け、1200機以上が生産された。写真偵察機に改装された最後のF8が退役したのは87年で、過酷な任務の多い艦載機でありながら30年にわたって現役を務めた実績からも基本性能の高さがうかがえる。

 F8の最大の特徴は、飛行中でも取り付け角度を変更できる主翼で、離着艦の際には油圧で主翼の迎え角を7度上げ、低速時に高い安定性を発揮した。また、コックピットを機体の先端に設けたためパイロットの視界が極めて良好になり、操縦のしやすさにつながった。機体容量にも余裕があり、エンジンの換装や電子機器の高度化といった近代化改修を加えて汎用性を高めることもできた。ベトナム戦争当初は高い機動性を生かして制空戦闘で戦果を上げ、「MIGキラー」と呼ばれた。後には爆弾やロケット弾を搭載し、地上部隊の近接航空支援にも活躍した。

 F8は全長16.6メートル、全幅10.7メートルで単座単発とシンプルな構造。機体サイズはF4ファントムIIとそれほど変わらないものの、重量は12.7トンと半分程度しかなく、軽い分だけ扱いやすかった。後にF14で採用された可変翼のような複雑な機構を使わず、主翼の取り付け角をわずかに変えることで高速時の機動性と低速時の安定性を両立させたアイデアは、F8の長い現役生活を支えた。F8は米海軍よりもサイズの小さな中型空母を運用するフランス海軍にも供与され、離着艦性能の高さを評価されて90年代末まで使用された。

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