滑走路やカタパルトを必要としない戦闘機を求めていた米海軍は1951年、ロッキード社とコンベア社に対し、ターボプロップ(タービンエンジンによるプロペラ駆動)方式によるVTOL(垂直離着陸)戦闘機を発注した。軍艦や輸送船の狭い甲板から離着艦し、対空戦闘や対潜攻撃ができる戦闘機があれば、多数の空母は必要なくなるという発想で、当時はまだ高出力のジェットエンジンがなかったため、ターボプロップ方式が前提になった。海軍の要求仕様を満たすものとして、両社とも尾翼を下に直立して離着陸するテールシッター型の戦闘機を考案。ロッキード案がXFV1、コンベア案はXFY1と名付けられ、試作機によるテストが始まった。
テールシッター型機は、直立した機体にあおむけの格好でパイロットが搭乗し、そのまま垂直に離陸。上空で水平飛行に移り、戦闘行動が終われば尾翼を下に姿勢転換をし、垂直下降して着陸する。問題はエンジンで、燃料と武器弾薬を満載した機体を垂直に引き上げられるパワーが必要だった。最終的には、アリソン社がエンジン2基を連結して出力を倍増させたXT40(YT40)を開発したことで、テールシッター機実現に何とかめどがついた。両機とも巨大なエンジンのトルクを打ち消すため二重反転プロペラを採用、ロッキードのXFV1は直線翼にX字型の尾翼、コンベアのXFY1はデルタ翼と直角に交差した2枚尾翼という機体形状だった。見た目はおよそ不格好だが、両機ともちゃんと飛ぶことができた。特に、コンベアのXFY1は54年11月、垂直に離陸して水平飛行を行い、その後、尾部を下にして着陸するという史上初の遷移飛行を成功させた。
しかし、翌55年にはテールシッター型VTOLの開発中止が決まり、テスト機はいずれもスクラップにされた。実用化を阻んだ最大の理由は操縦が難しいこと。特に、仰向けの姿勢で肩越しに地面を振り返りながら下降する着陸操作は、熟練のテストパイロットが何度試しても恐怖感をぬぐえず、揺れ動く艦船の甲板へ安全に着艦するのは無理と判断された。テールシッター機は複雑な機構を使わないため、比較的簡単に垂直離着陸と高速飛行を両立できたが、着陸できなくては話にならない。理論的に正しくても兵器として実用化できるとは限らないことを示す貴重な教訓となった。
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