動画特集

峡谷、雲海、そして妖怪伝説=四国山地の秘境「大歩危・祖谷」

2012年3月21日
 徳島県西部に位置する三好市には、日本三大秘境に数えられる名勝地、大歩危(おおぼけ)・祖谷(いや)がある。自然が織り成す絶景、人里離れた場所だからこそ生まれた伝説、今もなお、山の急斜面に暮す人々。訪れれば、この場所を表す最適な言葉が「秘境」であると、多くの人が感じるだろう。見どころ満載の秘境「大歩危・祖谷」に迫ってみた。

 一説によると「大股で歩くと危ない」という意味で名付けられたという大歩危は、徳島県を流れる一級河川「吉野川」沿いの峡谷。2億年もの間、四国山地を吉野川の激流が浸食し、作り上げた断崖絶壁だ。エメラルドグリーンの吉野川とグレーの岩肌、山の緑が生み出すコントラストはまるで絵画のよう。上からの眺めだけでなく、遊覧船、ラフティングで川面から峡谷を楽しむこともできる。

 水木しげるさん原作の人気アニメ「ゲゲゲの鬼太郎」の名脇役、児啼爺(子泣き爺)の故郷は、大歩危。児啼爺のほかにも多くの妖怪伝説があり、水木さんお墨付きの展示館「妖怪屋敷」には地元の妖怪70体が、首を長くしたり、刃物を振り回して、観光客を待ち構えている。周辺には、10カ所以上の妖怪スポットがあり、各所で人間をにらみつける妖怪の像がたたずんでいる。これらを徒歩で巡るツアーも設けられている。妖怪にまつわる塚や墓などが実際に存在し、迫力あるツアーガイドの話で、今にも本物が出てきそうな雰囲気を味わえる。

 祖谷には、日本三奇橋の一つと言われる「祖谷かずら橋」がある。国の重要有形民俗文化財で、年間約40万人が訪れるという人気の観光スポットだ。かずら橋は、全長45メートル、幅2メートル、川面からの高さ約14メートル、植物のかずらなどで造ったつり橋。橋床に細い木が編みこまれ、すき間から真下がよく見える構造になっている。渡る人の多くが欄干にしがみついて歩き、中には動けなくなってしまう人の姿も。実際に渡ってみると、かたわらで見ているよりもかなり恐ろしい。渡り切ったあとには、額に冷汗がにじむほどだ。

 祖谷にも伝説がある。平家の落人にまつわるもの。平家物語では、壇ノ浦の戦いで破れ、敵兵士を両脇に抱え入水したという平清盛の甥、平国盛(教経)。実は、壇ノ浦で命を落としたとされる安徳天皇とともに祖谷で生き続けたというもの。今でも、平氏の末裔が祖谷で暮らし、祖先代々が眠る墓地を守っている。また、その後病死したとされる安徳天皇を祭る、菊のご紋が付いた神社も存在している。

 風光明媚な祖谷渓谷は、西日本で2番目の高峰「剣山」から流れる祖谷川が、四国山地を舞台に生み出した傑作。川が蛇行し、ひらがなの「ひ」の字に見えるところが一番の絶景地だ。近くには、断崖に迫り出した岩の上に、少し場違いな小便小僧の像がある。昔ここで、地元の子どもたちや旅人が度胸試しをしたというエピソードから建てられたという。谷底から約200メートル、そばに立ってみると目のくらむような高さ。風が少し吹いてバランスを崩したら、奈落の底行きだろう。この度胸試しも、まことしやかな伝説なのかも知れない。

 祖谷では、急斜面に建てられた家屋を多く見かける。警察、郵便局などの公共機関は以前、山の尾根にあったという。山を越えて隣の集落に行く場合には、尾根伝いに移動した方が早かったためだ。今では、公共機関は、国道のある山の裾野あたりに移動しているが、民家はそのまま残っている。国の重要伝統的建造物群保存地区の指定を受けた落合集落は、高低差約390メートルの急斜面に家屋が立ち並んでいる。杉が山の大部分を覆う中、集落の場所だけが開けている。向かい合う山には展望エリアが設けられており、そこでは、日本むかし話に出てくるような、どこか懐かしい風景に出会うことができる。

 宿は、山頂に露天風呂を持つ、かずら橋近くのホテル「新祖谷温泉ホテルかずら橋」がお勧め。露天風呂まではホテル内に設けられた専用のケーブルカーで向かうのだが、そこからの眺めは格別。目の前に山々の大パノラマが広がる。夕食も特徴的だ。大歩危・祖谷地区の宿泊施設で共同開発した鍋料理「お美姫鍋(おみきなべ)」を提供。地酒をベースにした特製のだしに、地元で作られた石豆腐、そば米入り餅巾などの食材が盛りだくさんに入っている。素材の良さを生かすための調理方法も定める徹底ぶり。味わい深いだしの染み込んだそば米は絶品の一言。鍋のためだけに大歩危・祖谷に行っても損はないだろう。

 春と秋の早朝は、川から立ち上る水蒸気が低い場所で雲となり、祖谷の空を漂う。前日と比べ寒暖の差が激しく、晴れた日には、標高1000メートルを越える山から、見渡す限りの美しい雲海が望めるという。ホテルかずら橋では、雲海ツアーを実施しており、前日に受付で申し込めば、翌日午前6時に出発するツアーに参加できる。

 大歩危・祖谷は、最寄の空港である高知龍馬空港から車で約1時間20分。秘境という割には、交通の便はさほど悪くない。JR四国、土讃線の駅もある。だが、名所めぐりは覚悟しなければならない。道路は、1車線分の幅で相互通行の場所が多くあり、少しハンドル操作を誤れば、谷底に転落してしまうような山道もある。また、道順も難しく、ほぼユーターンのように曲がる場所も-。しかし、幾つかの難所を抜けていくと、そこには目を見張るような美しい世界が広がっている。困難と絶景のギャップ、これこそが秘境たるゆえんだろう。訪れる際には、危険な場所もあるので自ら運転するよりも、地元の道に精通した人の運転をお勧めしたい。【時事ドットコム編集部撮影】

特集

コラム・連載

ページの先頭へ
時事通信の商品・サービス ラインナップ