図解
※記事などの内容は2019年3月26日掲載時のものです
気象衛星「ひまわり」は42年前に初めて打ち上げられ、平成の始まる直前、地球全体を1時間ごとに観測し始めてから30年たった。現在運用中の8号は世界最高性能を誇るが、過去には打ち上げ失敗もあった。気象庁気象衛星センターの宮本仁美所長(60)は「将来は豪雨や気候変動の観測を強化したい」と話している。
8号は関東・東北豪雨、九州北部豪雨、西日本豪雨のほか、鹿児島県・桜島や小笠原諸島・西之島の噴火などを観測。陸地や海面の温度、大気の流れなどのデータは、さまざまな予報に日々活用されている。今月からは台風の進路だけでなく、強さの予報も5日先まで発表できるようになった。
豪雨の際は雲の下にある水蒸気量の分布を観測できれば予報精度が向上する。地球を低軌道で周回する衛星なら観測可能だが、1日2回程度しか日本上空を通らない。ひまわりのような静止衛星で遠くから観測するには、巨大なアンテナが必要となる。宮本さんは「現在は夢のような話だが、技術が進歩すれば可能かもしれない」と話す。
ひまわりが欧米の気象衛星とともに長年観測し続けている地球全体のデータは気候変動、地球温暖化予測の基盤であり、自然災害が増え続ける中でますます重要となる。観測性能のさらなる向上が必要だ。
しかし、1999年にはひまわり6号となるはずの「運輸多目的衛星」がH2ロケットによる打ち上げに失敗した。運用の準備に当たっていた宮本さんは「非常にショックだった」と振り返る。ひまわり5号は延命策を取ったが、2003年に観測を米気象衛星ゴーズ9号に代行してもらった。
気象観測と航空管制の機能を併せ持つ運輸多目的衛星は米企業製で、作り直す際も国際競争入札で同じ企業が受注したが、経営破綻。再建計画の一環として日本側に追加費用を請求してきたが、宮本さんらが米連邦破産裁判所で粘り強く交渉を続けた結果、逆に同社が遅延損害賠償金を払う条件で和解が成立した。
作り直した衛星は05年に無事打ち上げられ、ひまわり6号と命名された。宮本さんは「ほっとした半面、これからが本当のわれわれの仕事だと感じた」という。
宮本さんは「気象衛星は多額の予算が必要だが、国民の命を守るインフラだと思う。地道に観測を続け、質の高いデータを提供するのが使命だ」と話している。
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