図解
※記事などの内容は2019年5月20日掲載時のものです
裁判員裁判の判決を控訴審が覆す「破棄率」が上昇傾向にあることが20日までの最高裁のまとめで分かった。裁判員制度は21日で導入10年。破棄理由の最多は被害者側との示談や弁償など、一審判決後に生じた事情の変化だったが、制度の浸透やその後の最高裁判決で、市民判断を見直すことへの高裁裁判官の心理的ハードルが低くなっている可能性もある。
最高裁によると、制度導入前3年間の平均で17%台だった破棄率は、09年5月の導入後に急減。そもそも控訴審数が少ない09年は比較できないが、3年目に入り、高裁での審理が本格化した11年は7%台で、導入前より約10ポイント下がっていた。12、13年も5~6%台にとどまり、高裁裁判官が市民判断を尊重する姿勢がうかがえた。
だが、導入6年目の14年になると、2倍近くの11.3%まで急上昇。翌15年は最高の14.2%に達し、16年も13.0%と高水準を維持した。17年に9.2%まで下落したが、18年は11.9%と再び1割を超えた。
法曹関係者が「転機」と指摘するのが、14年の最高裁判決だ。最高裁は、裁判員が被告に求刑の1.5倍に当たる懲役15年を言い渡した虐待死事件で、「他の裁判結果との公平性は保持されなければならない」と判示。最高裁として初めて裁判員の量刑判断を見直し、以降、高裁裁判官の関与が強まったとみられる。
この2年半前、最高裁は覚せい剤密輸事件の判決で、制度導入後の控訴審の在り方について、一審の誤りをチェックする「事後審」に徹するべきだと強調。「明らかに不合理でなければ一審判決を尊重すべきだ」と指摘し、「裁判員裁判はアンタッチャブル」(関係者)との空気が広まっていたという。
控訴審の在り方については、裁判所内部で議論が続けられている。市民判断の尊重とのバランスをどう取るのか、今後も模索が続く。
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