図解
※記事などの内容は2019年6月1日掲載時のものです
容疑者らが捜査協力の見返りに刑事処分の軽減を得られる日本版「司法取引」の導入から1日で1年となった。日産自動車前会長カルロス・ゴーン被告(65)の事件など2件で適用され、関係者からは「実態解明に有用」との声も上がったが、捜査当局の「新たな武器」は、虚偽供述による冤罪(えんざい)の危険もはらむ。専門家は「公判での検証が重要」と指摘した。
司法取引は昨年6月の導入後間もなく、大手発電機器メーカー三菱日立パワーシステムズの外国公務員贈賄事件で初適用された。東京地検特捜部は翌月、取引に基づき同社を不起訴とし、元執行役員ら3人を不正競争防止法違反罪で在宅起訴。2人は有罪が確定し、無罪を訴える1人の公判が続く。
従来の捜査手法では解明困難な組織犯罪でのトップ追及に有効とされた司法取引の第1号は、期待と異なる内容。検察幹部は「当初から想定していた適用方法だ」と語ったが、「制度の目的から外れている」と批判を浴びた。
第2号の成立は導入5カ月後。特捜部は日産の外国人執行役員ら2人と、ゴーン被告の役員報酬隠しに関する証言や資料提供の見返りに不起訴とすることで合意した。
司法取引に関与した日産関係者は「合意がなければ、2人は捜査協力しなかった可能性がある」と振り返る。一方、取引で提供された資料などに基づいて起訴されたゴーン被告は不正を全面否定しており、東京地裁は2人の証言内容については、公判での尋問を通じ、慎重に吟味する方針だ。
元特捜部検事の吉開多一国士舘大教授(刑事訴訟法)は「司法取引は合理的に証拠を集める捜査手法で、積極的に活用すべきだ。公判で慎重にチェックされることで、国民の理解も深まる」と話している。
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