図解
※記事などの内容は2018年12月1日掲載時のものです
中国・南方科技大の賀建奎副教授が遺伝子を効率良く改変する「ゲノム編集」技術を使い、エイズウイルス(HIV)に感染しないよう受精卵を操作して双子を誕生させたと国際会議で主張。真偽は不明だが、事実であれば非倫理的と非難を浴び、中国当局が調査を始めた。どんな問題があるのだろうか。
-ゲノム編集って何。
全遺伝情報(ゲノム)を構成するDNA配列の狙った部分を切断、削除したり、別の配列を挿入、置き換えたりする技術だ。3種類あるうち、欧米の女性研究者らが開発した最新の「クリスパー・キャスナイン」法は既存の遺伝子組み換え法などより簡単で効率が良く、ノーベル賞級の成果とされる。2013年ごろ以降、急速に普及した。
-何の役に立つの。
農林水産分野では長年かかっていた品種改良が短期間でできる。日本では収穫量が多く、病気や害虫に強いイネや健康に良い成分を含むトマト、身の厚いマダイなどの実用化を目指し、研究が進む。食品の場合は遺伝子組み換えの場合と同様に安全性の評価が課題となり、厚生労働省が評価方法を検討している。
医療分野ではがんや難病の原因遺伝子を抑制、修復するなど、既存の遺伝子治療法より幅広く応用できる可能性がある。
-なぜ受精卵に応用?
重い遺伝病の原因遺伝子を持つ親から子が生まれる場合、子が発症したり、早く死亡したりする可能性が高いケースがある。将来、受精卵の原因遺伝子にゲノム編集技術を使えれば、子が健康に育つと期待される。
-なぜ問題になるか。
現在の技術水準では、遺伝子のDNA配列の狙った部分以外を切断したり、改変できた細胞とできない細胞が混在したりして、子の健康に悪影響が生じ、次世代以降にも遺伝する恐れがある。美しい容姿や高い運動能力を持つ子を誕生させるために使われる事態も懸念されている。
-各国の規制は。
ゲノム編集を行った受精卵の胎内への移植は英国とフランス、ドイツが法律、中国が国の指針で禁止し、米国は連邦予算の支出を認めていない。日本では厚労省と文部科学省が基礎研究に限定し、胎内への移植を禁止する倫理指針案を検討している。
しかし、違反者に想定される制裁は事実の公表と公的研究費の返還請求であり、民間の産婦人科医らへの抑止力が弱い。日本学術会議は昨年、法規制の検討を提言した。クローン技術規制法(01年施行)では、クローン人間誕生を防ぐため、10年以下の懲役や1000万円以下の罰金の罰則を設けている。
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