図解
※記事などの内容は2019年3月29日掲載時のものです
1989年(平成元年)に生まれた消費税は4月1日に「満30歳」を迎え、半年後の新元号元年10月に10%の大台に乗る。政府は消費の落ち込みを防ぐ景気対策に加えて、飲食料品を中心に税率を8%に据え置く軽減税率を導入。持ち帰りや店内飲食などに応じた複数税率は混乱を招きかねず、さらにキャッシュレス決済のポイント還元も加わる。人手の乏しい中小零細企業の不安はなお強く、消費税増税後の消費底上げにつながるかは不透明だ。
◇悩ましい苦情対応
軽減税率は消費増税と同時に適用される。飲食料品をはじめ対象商品を取り扱う店舗では、複数税率に対応するレジや会計システムを導入しなければならず、商品の線引きから顧客への対応に至るまで従業員教育の徹底を図るなど現場の負担は大きい。
政府は、中小小売店のレジ購入費を4分の3補助する制度を設け、国税庁職員らが全国の商工会議所に出向いて説明会を開催。「対象品目の線引きといった初歩的な質問はほとんど出なくなった」(財務省幹部)というが、日本商工会議所の幹部は「実際に制度が始まってみないと分からない部分が多い」と不安を隠さず、「ある程度の混乱は避けられそうにない」と中小零細の本音を代弁した。
実際に小売りの現場からは「顧客対応への不安は最後まで尽きない」(日本チェーンストア協会)との声が聞かれる。大手を中心にシステム改修などは順調に進んでいるものの、軽減税率対象外のイートインをめぐり、持ち帰りを申告して税率8%を適用されながら「店内飲食する顧客への苦情対応が悩ましい」(大手コンビニエンスストア)という。
◇消費者置き去りの懸念
10月の増税から9カ月間、小売店でキャッシュレス決済を行った消費者に最大5%のポイント還元が実施される。日本チェーンストア協会などは店によって還元率に差が出る上、還元のない店も混在するため、政府に対し「公正な競争を阻害する」と再考を申し入れた。小売業界はクレジットカード会社などと連携し確実な還元処理を求められるが、制度の詳細は固まってなく、各社の準備は進んでいない。消費者が置き去りにされたまま10月を迎える恐れもある。
政府は増税による景気への打撃を最小限に抑えるとして、2019年度予算に2兆円規模の景気対策を盛り込んだ。軽減税率の財源やポイント還元費を含む歳出規模は消費増税分を上回り、野党からは「財政規律を無視した大盤振る舞い」と批判の声が上がる。景気の先行きに不透明感が漂う中、消費者が安心できる税率10%の引き上げに備えた官民の取り組みが求められている。
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