図解
※記事などの内容は2017年2月11日掲載時のものです
安倍晋三首相とトランプ米大統領の初の首脳会談で、新たな経済対話の枠組みが決まったが、双方の思惑は擦れ違う。日本側は対話をてこに、自動車貿易や為替などの争点化の回避とともに、米国が環太平洋連携協定(TPP)に復帰する糸口を探る。一方、トランプ氏は「自由、公正で双方に利益となる貿易関係」を目標に掲げ、TPPに代わる日米の自由貿易協定(FTA)を呼び掛けてくる可能性がくすぶる。
経済対話は閣僚レベルで、(1)財政、金融などマクロ経済政策の連携(2)インフラ、エネルギーなど経済協力(3)2国間の貿易枠組み-の3分野で議論する。日米の相互協力の深化でカギを握るのが「経済協力」だ。
日本側の説明によると、首脳会談では対米投資や雇用創出の具体的な協力策は出なかったが、首相は会談後の共同記者会見で、新幹線など日本の高速鉄道技術をアピール。トランプ政権のインフラ整備構想に連動した対米協力を探る考えを鮮明にした。中国の台頭などを念頭に、エネルギー、サイバーセキュリティー、宇宙分野でも米国と共同歩調を取る方向だ。
一方、「2国間の貿易枠組み」をめぐっては、日米の思惑の違いが透けて見える。日本側は、アジア太平洋圏の経済ルールを日米主導で構築する意義を強調し、トランプ政権がTPP復帰を検討する下地作りを狙う。
トランプ氏は自動車貿易や円安を、米国の巨額の対日貿易赤字と結び付け批判してきた。会談でこうした批判は出なかったが、共同声明には「市場障壁の削減」という文言が盛り込まれた。これは日米FTAを含む通商交渉にも当てはまる。
日米FTA交渉が始まった場合、米側がTPP合意を上回る市場開放を求めてくる恐れがある。日本側はTPP合意を「防衛ライン」とし、米側は「スタート地点」と見なすことになりそうだ。TPP交渉で日本が「聖域」として関税を守ったコメや牛・豚肉などの重要農産物が再び主戦場となることが想定される。
1980~90年代の自動車、半導体などの貿易摩擦で相次ぎ譲歩を迫られた日本は、「成長のための日米経済パートナーシップ」(2001年発足)といった対話の枠組みを提案し、全体の中で個別分野の争点化を抑えてきた。今回の会談で両首脳は、日米貿易摩擦の時代は「遠い過去」だと確認したという。その言葉が正しいかどうかは、近い将来に試されそうだ。
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