図解
※記事などの内容は2019年2月9日掲載時のものです
厚生労働省が所管する毎月勤労統計の不正で統計全体への信頼が揺らぐ中、賃金をめぐる論争が混迷の度を深めている。購買力を示す「実質賃金」で見るとマイナスだと追及する野党に対し、経済政策「アベノミクス」を進める安倍政権は労働者全体では収入が増えていると反論。主張はすれ違い、国民の懐具合の実情は見えないままだ。
勤労統計では、現金給与総額(名目賃金)と、実質賃金が示される。名目賃金は1人の労働者が1カ月にもらう給料に当たり、収入が増えたか減ったかを判断できる指標になる。8日発表された2018年の平均は前年比1.4%増と、5年連続のプラスだった。
名目賃金から物価上昇率を引いたのが実質賃金だ。もらった給料でどれだけたくさんの物やサービスを購入できるかを示し、労働者の生活の豊かさを表す。18年は0.2%増と、2年ぶりのプラスになった。
だが不正とは別に、18年は統計手法を変更した影響が大きく、従来手法より賃金が高めに出ている。野党は、手法の変更はアベノミクスがうまくいっていると偽装するためではないかと疑っている。手法変更の影響を除いた「参考値」で前年と比較すれば、ほとんどの月でマイナスになると主張しているが、厚労省は実質賃金の参考値の公表を拒んでいる。
一方、安倍晋三首相が野党への反論材料としてよく引用するのが「総雇用者所得」だ。政府の月例経済報告で公表され、1人当たりの給料に労働者数を掛けて推計される。総雇用者所得は増加傾向にあるが、働く女性や高齢者の増加で労働者数が増えている影響が大きく、これだけで賃金が上がっているとは断定できない。
賃金は増えているのか、減っているのか。大和総研の小林俊介エコノミストは「そもそも判定に足るデータが出てきていない」と説明。勤労統計は不正や手法の変更でデータがゆがんでおり、判断できないという。
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