図解
※記事などの内容は2019年1月29日掲載時のものです
「私自身が議論したいのは、米国の金融システムの状況をどう評価するかだ」。前年から続く国際金融市場の動揺が小康状態となっていた8月。白川方明日銀総裁(以下、肩書は当時)は19日の決定会合で、やや唐突に米国の金融システム問題に話題を切り替えた。
白川氏が問題視したのは、1990年代の日本の金融危機を念頭に米国内で「日本の繰り返しにはならない」との議論が主流になっている点だった。白川氏は「やや楽観的」と明確に警戒感を示した。
他の委員らも「これから本番が来る可能性もある」(西村清彦副総裁)、「公的資金の注入も議論に上ってくる」(野田忠男審議委員)と指摘。リーマン破綻の1カ月前、かつて金融危機を経験した日銀内で再び不安が高まっていた。
◇波及に危機感-9月会合
「全くフェーズが変わってしまった。金融市場はリーマンの破綻で一変し、緊張感が今朝から一挙に高まっている」。9月16日午後2時に始まった定例の決定会合。経済状況を説明した中曽宏金融市場局長の言葉は危機感に満ちていた。
リーマンが「市場の期待を裏切る形」(野田氏)で破綻を発表したのは、日本時間の15日昼すぎ。直後から海外では急激な株安、為替相場では円高が進み、連休明け16日午前の東京市場では平均株価が約5%の大幅安となっていた。
会合の喫緊の課題は、日本の金融システムへの波及阻止。西村氏は「国際金融市場の影響から隔離されているわけではないことを肝に銘ずる必要がある」と警告した。
18日には、世界的に枯渇したドルを日米欧6中銀が協調して供給するため、異例の臨時会合を開催。中曽氏は「邦銀はドルを潤沢に持っているが、特に年末にかけてのドル需要の逼迫(ひっぱく)を心配している」と訴え、ドル供給に理解を求めた。
反対論は出なかった。しかし、「邦銀のドル調達に問題があると誤解される」(山口広秀理事)恐れがあった。須田美矢子審議委員が「日本の金融機関を考えて対応していると伝わらないように」とくぎを刺すと、白川氏は「(邦銀が)逼迫しているという印象は絶対に与えないようにする」と応じるなど、切迫したやりとりが続いた。
◇利下げ幅で苦慮-10、12月会合
「金利水準を下げることで経済をサポートしていく姿勢を示すが、(金利がゼロに接近し)金融市場の機能がさらに低下してしまうと本末転倒になってしまう」。
約7年半ぶりの利下げを決めた10月31日の会合。白川氏は、市場の思惑に反し利下げ幅を0.2%にとどめたい理由をこう説明した。
景気の停滞色が強まり、会合では利下げを支持する意見が大勢を占めた。しかし、政策金利はわずか0.5%。利下げ余地が限られるだけに苦しい対応が続く。「出し惜しみしていると見られるべきでない」(亀崎英敏審議委員)。利下げ幅をめぐり意見は分かれ「4種類の提案が出たのは初めて」(白川氏)という緊迫した議論となった。
最終的に下げ幅を0.25%とする審議委員3人の共同提案と、0.2%にとどめる議長案の2案を採決。日銀執行部の職員は議案を読み上げる直前、「念のために申し上げる」と断った上で「可否が同数になった場合には、議長が可否を決する」と説明した。議長案の賛否は4対4。議長の可決判断で乗り切るぎりぎりの決定となった。
議論の末に利下げを判断したが、10月上旬に協調利下げに踏み切った米欧と比べ、日銀の利下げスピードが遅いとの批判も強かった。米国が12月に実質ゼロ金利政策の導入に踏み込むと、日銀の立場はさらに苦しくなった。
直後の12月19日、日銀は0.2%の追加利下げに踏み切った。ただ、ここでも白川氏は「(0.1%でも金利を)死守する構えは非常に大事だ」とゼロ金利回避に強いこだわりを示していた。
新着
会員限定