図解
※記事などの内容は2019年2月16日掲載時のものです
家畜伝染病「豚コレラ」の感染拡大が止まらない。発生地周辺の養豚農家からは一刻も早い豚へのワクチン接種を求める声が上がるが、いったん接種すれば豚肉の輸出に影響が出るなどの理由で政府は「時期尚早」の立場を崩していない。ただ、これ以上豚コレラの封じ込めにてこずれば、ワクチンの使用が現実味を帯びそうだ。
「明日はわが身」。静岡県養豚協会の中嶋克巳会長らは15日、吉川貴盛農林水産相に対し、ワクチン使用に踏み切るよう強く求めた。今月に入り豚コレラが頻発する愛知県田原市は、静岡県との県境にほど近い。「経済圏は同じ。感染し、殺処分になれば農家は再起不能だ」(中嶋会長)と訴えは切実だ。
しかし、農林水産省は「ワクチンは最終手段」(吉川農水相)と、使用に否定的だ。ワクチン接種の対象地域に指定されれば、感染していない養豚場も接種しなくてはならない。ワクチンを接種された豚肉はイメージ悪化により販売に影響が出る可能性もある。
またワクチンを使用すれば、国際ルールが定める「清浄国」でなくなり、多くの国が日本からの豚肉輸入を制限するのは必至だ。過去には全国的な接種により感染を予防していた時代もあったが、農水省は政策を転換。1996年から11年かけてワクチンに頼らず清浄化を達成した経緯がある。農水省幹部は「せっかく得たステータスを返上してまで使用に踏み切るべきなのか」と慎重だ。
そもそも農水省は、これまでの感染養豚場では、長靴を履き替えないなど基本的な衛生管理ができていないケースが多かったとし、管理徹底により感染拡大を防ぐ余地があると考えている。だが、「これ以上ないほど取り組んでいる」(養豚農家)と、目に見えないウイルスと殺処分におびえる農家との温度差は大きい。
一方、中国では豚コレラより強力な「アフリカ豚コレラ」がまん延している。いつ日本に上陸してもおかしくない状況だが、この病気には有効なワクチンがない。「今こそワクチンに頼らない衛生管理を」(与党議員)との指摘もあり、混迷は深まっている。
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