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突然、遠くに白い煙がパッと舞い上がるのが見えました。4キロぐらいは離れていたと思います。白煙は、どんどん大きくなりました。最初は何が起きたのか分かりませんでした。気が付くと、高さ100メートルぐらいの白い壁が300メートルぐらい先まで迫っていたのです。
私はスタッフ2人と、現地ガイド2人の計5人で雪の山を登っていました。大きなリュックサックとは別に、各自が小さなそりも引いていました。そりは体に付けたハーネスとつながり、テントや食料などを積んでいました。重さは20キロぐらいあったはずです。
「雪崩(なだれ)だ! 雪崩だ!」。登山ガイドが叫びました。けれどそりがつながっていたので、すぐに動こうとしても動けません。
慌てて下山方向に走りましたが、真っ白の霧に包まれて何も見えなくなりました。そして、喉に突き刺さるような違和感。雪の結晶です。「もう駄目だ」。やられたと思いました。
時速100キロ以上の猛スピードで下りて来る雪崩が巻き起こす強風が、雪の結晶を飛ばしてきたのです。私は口を手で覆って雪煙が入らないようにしました。ほんの1分間ぐらいのことかもしれません。しかし白い闇の中では、それがとても静かで長く、恐ろしい時間でした。霧のような雪煙は、少しずつ薄くなって消えました。
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前回のマッターホルンに続き、わたくし和田好正の冒険記録をお伝えします。今回はマッターホルン編です。
〔写真〕 積もった雪を登り、ウェストリブルートの麓を目指しました。(この特集の写真は、すべて和田良正氏提供)(1987年06月撮影) 【時事通信社】