日本自動車輸入組合(JAIA)が主催するメディア関係者と自動車ジャーナリスト向けの輸入車試乗会が1月31日から3日間、神奈川県大磯町の大磯ロングビーチを拠点に開催された。今年は最新モデル62台が出展され、このうち電気自動車(EV)は中国、韓国勢も加わり、前年より大幅に増えて23台に上った。ガソリン車は17台、ハイブリッド車(HEV)は9台だった。
各社のEVはさらに進化を遂げて高性能化し、個性を発揮し始めていることを実感。ICE(内燃機関車)の時代が、いよいよ終わりを告げようとしているように思えた。(2023年3月17日、時事ドットコム編集部)
隣国から来た令和の「黒船」
中国・深圳に本社を置き、ITエレクトロニクスと電気自動車(EV)などの事業をグローバルに展開するBYDが日本の乗用車市場に第1弾として投入したのが、EVのSUV(スポーツ用多目的車)「ATTO3」だ。試乗後の感想を結論から先に言ってしまおう。中国メーカーがまさかここまでできるとは。その完成度に正直、驚かされた。掛け値なしによくできたクルマなのである。
ATTO3は全長4455mm、全幅1875mm、全高1615mmで、日産のSUVタイプのEV「アリア」と比べると、全長は140mm短いが、全幅は25mm広く、全高は40mm低い。車両重量は1750kg、ホイールベースは日産EV「リーフ」より20mm長く、アリアより55mm短い2720mmとなっている。
試乗車は、サーフブルーと名付けた色鮮やかな青の塗装が施された車両。グリルレスのフロント、彫りの深いボディーサイドのダイナミックな造形、横一直線につながったリアランプなど、欧州メーカーのSUVかと思えるほど、スタイリッシュなデザインが印象的だ。
インテリアはフィットネスジムをモチーフに表現したといい、ドアハンドルやドアロック、エアコンの吹き出し口など、随所にトレーニングマシンのパーツに着想を得た意匠が施されている。とても個性的だが、うまくまとまっていると言えるだろう。
合皮のシートは座面の硬さがほどよく、表面がパンチング処理された上、赤いラインやステッチを入れるなど色使いのデザイン性も高い。フロントシートはヘッドレスト一体型を採用しており、全体的にスポーティーなテイストに仕上がっている。身長160cm台の筆者が正しいシートポジションを取ると、後席は膝前にこぶし3個分が入る余裕があった。後席床はセンタートンネルのないフルフラットなフロアになっている。
面白いのは、ダッシュボードに設置された横長の12.8インチのタッチスクリーンが、ハンドルのボタン操作で90度回転し、縦になることだ。人によっては、スマートフォンと同様、縦の画面で見た方が、扱いやすいという声もあるのだろう。
高い剛性感、航続距離485km
センターコンソール上のスタートボタンを押して電源を起動。ブレーキを踏みながら、旅客機の出力レバーのような形状のノブを手前に引いて「D」(前進)に入れ、足をアクセルに移すと、車両はスムーズに動きだした。
発進までの一連の動作は、通常のガソリン車と同じだ。クルマの急速な電動化により、最近はスタートボタン自体が廃止されたり、D、R(後退)、P(駐車)などの操作をレバーではなく、スライド式のスイッチや押しボタン式に変更したりする例も多くなったが、正直、初めて乗る場合は戸惑うこともある。ATTO3は、そんなユーザーの不安を払拭(ふっしょく)してくれる。ウインカーレバーがちゃんと右側に付いているのも安心材料だ。
主要諸元にはモーター出力150kw(204PS)、最大トルク310Nmの前輪駆動で、バッテリーの総電力量58.56kWhと記載されているが、実際の走りはどうか。
まずは一般道を走行。段差のある道路や舗装の荒れた路面を何度も走ってみたが、不快な突き上げや揺すられ感はなく、落ち着いた挙動だった。中国製のSUVではカーブで顔を出すかもしれないと思った車両のロールも、うまく抑えられていた。
続いて速度域の高い自動車専用道を運転してみると、アクセルペダルに連動したリニアな加速、直進安定性など、「ほう」と感心することばかりで、「これはちょっと」と思える点はなかった。
それにしても、カチッとした車体の剛性感には驚いた。専用道のジョイントを通過する際、車両の動きが一発で収束する足回りの良さも、このクラスの日本車にはないかもしれないと感じるほどだった。
走行モードはセンターコンソール上のスイッチを回して、ノーマル、エコ、スポーツの3つに切り替えられる。ノーマルからスポーツに切り替えても、出力やハンドルの操舵(そうだ)感が豹変(ひょうへん)するタイプではなく、加速レスポンスや力強さの変化はあくまで穏やかだ。回生機能も2段の切り替え式だが、ワンペダルの設定にはなっていない。慣れないドライバーには、強い制動がかかるワンペダル走行は違和感を覚えるとの配慮なのかもしれない。
担当者の話では、もともとバッテリーメーカーとして創設されたBYDは、経験と技術力を生かして熱安定性の高いリン酸鉄リチウムを使って薄い板状のブレードバッテリーを開発。ATTO3のフロア下のパック内に敷き詰め、シャシーの一部を構成しているという。このため高い車体剛性が得られているとのことだ。
また、EV専用に開発されたプラットフォームを採用しているほか、モーターや制御システム、バッテリーの温度管理システムなどを統合した自社開発のコンパクトなユニットをフロント部分に搭載。同じクラスの他社EVに比べ、「車両重量が200kgほど軽量化されているのも特長です」と話していた。
気になる点と言えば、小さいながらフロント部分から常時聞こえてくるビーンという電気的な駆動音と、開閉時のフロントドアの重さくらいだった。
クルマとしての基本性能に全く不満はない。航続距離はWLTCモードで485km、欧米勢に負けないほど各種の先進運転支援機能も付いている。しかも、開放感のあるパノラマルーフは全車に標準装備だ。それでいて価格は440万円~となっている。
このコストパフォーマンスの高さは、ユーザーへの説得力として十分過ぎるだろう。年内にはハッチバックの「DOLPHIN」とセダンの「SEAL」も相次いで投入する予定になっている。特にSEALのデザインは秀逸で、実車が楽しみだ。
BYDの日本法人は2023年2月2日に横浜に第1号の販売店を開設。25年末までに100店舗以上の展開を目指すという。ATTO3は、エンジン車に執着する日本にEVへの開眼を迫る、隣国から来た令和の「黒船」と言えるのではないか。
このよくできたクルマが今後、かつてのトヨタ「カローラ」や日産「サニー」のように、日本も含めてEVスタンダードとして市場を席巻する日が来ないとも限らない。本当に大丈夫か、ニッポン。
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