「学歴も学閥も関係ない、実力の世界だけど」現役女性弁護士たちが語る“リアル『虎に翼』事情”「作中のセリフに思わず涙が…」

矢内 裕子 2024年06月22日

 日本初の女性弁護士・三淵嘉子をモデルにした主人公の人生を描き、大ヒット中のNHK連続テレビ小説『虎に翼』。

 実は法曹界でもファンが多数の同作について、自らもファンだという同期の弁護士、太田啓子さん、佐藤倫子さん、國本依伸さんの3名に魅力を語っていただきました。2024年6月20日(木)発売の『週刊文春WOMAN 2024夏号』より一部を抜粋し、掲載します。

主人公の猪爪寅子(伊藤沙莉) ©NHK

「朝ドラ待望論」は、弁護士業界では昔からあった

太田 『虎に翼』は弁護士ばかりでなく、友人・知人の反応が熱くて、追いかけて観るようになりました。

 朝ドラは子どもたちのお弁当や朝食を作るときに観たり観なかったりなのですが、『カムカムエヴリバディ』(2021-22年)は自分もよく聴くラジオ英会話の話なのでハマってました。『虎に翼』はBSでの放送、総合での放送と2回観て、在宅ならお昼の再放送を追いかけてます。

佐藤 朝ドラは『あまちゃん』(2013年)のほかはほぼ観ていません。『虎に翼』には放送前から期待していて、憲法14条が読み上げられる初回は泣きました。日本弁護士連合会(日弁連)も「女性法曹を増やしたい」と、2016年の早稲田大学のイベントを皮切りに、毎年、女子中高生向けのイベントを続けてきています。「日本初の女性弁護士のどなたかが朝ドラにならないか」という待望論は、弁護士業界のなかではかなり以前からあったと思います。

國本 僕はお二人よりも朝ドラ歴はありますね。評価の高い『カーネーション』(2011-12年)はアメリカ留学中で見逃してしまいましたが、それ以外は『ウェルかめ』(2009-10年)以降全て観ています。

 最近のものだと、『エール』(2020年)、『カムカム』はだいぶハマっていました。『虎に翼』は「期待したいけど、日本の司法ドラマだからどうせ裏切られるよね」と思っていたんだけど、初回に憲法14条がドーンと出て、腰を抜かしました。

 正直、弁護士をやってると、リーガルドラマに期待しないじゃないですか。

太田 そうですね、ありえない展開ばかりなので。でも、『虎に翼』はきちんと法律を扱いながら、エンターテイメントになっていて、法律の知識に関係なく面白く観られるのがすごい。

 

弁護士が盛り上がるポイントとは

佐藤 第1週で「日常家事債務」と「婚姻女性の無能力」が、物語の中で関連づけて説明されているところとか、本当に驚きました。

國本 日常家事債務条項というのは、簡単に言うと、「妻のサザエさんが夫のマスオさんに確認せずに、三河屋さんに注文するなど(日常的な行為)をしてもよい」ということ。この、夫婦の一方による家庭以外の第三者との取引は夫婦が連帯して責任を負うことを定める条項は今の民法でもあります。

 一方、僕が触れてこなかった戦前の民法では、「妻の無能力」と言って、妻が法律行為をする能力を認めない条文がありました。しかし、妻に法律行為をする能力を全く認めないと、当然家庭が回らなくなってしまう。そこで戦前は「日常行為なら、夫に確認せずとも妻がしてもよい」という日常家事債務条項が例外として機能していたわけです。

 その二つの法律のつながりを、ドラマのなかでは寅子の疑問に桂場(松山ケンイチ)が答える形で見せている。弁護士が独立した知識として知っていることが「リアルにそうつながるのか!」と気づかせてくれました。

佐藤 改正前の旧民法を読みたいと思っても、総務省が運営するポータルサイト「e-Gov」にも入っていなくて見ることができないのは問題ですね。私達も旧民法の知識は断片的にしか持っていなくて、『虎に翼』に出てくる法律や歴史の考証は勉強になります。

國本 ドラマに刺激されて、帝人事件に関する本を買おうとしたら、古本屋ですごい高値がついていました。法律家の間で資料の奪い合いになっているのかも。

太田 弁護士たちの盛り上がりが凄いですよね。Facebookを開くと、同業者による感涙の投稿が毎日のように流れてきます(笑)。

佐藤 おそらく、男性弁護士はドラマに出てくるエピソードの元ネタや法律などのマニアックなネタで、女性弁護士は昔から今につながる女性差別の問題で盛り上がっていると思う。夫も弁護士ですが、彼と私のSNSのタイムラインでは見え方が違うんじゃないかな。

 

現代の弁護士の「男女格差」

太田 『虎に翼』では、せっかく弁護士になったのに性別による偏見で依頼が来ず、寅子が苦しみます。

 今も、依頼者や相手方から、「女性だから舐められてるんだろうな」と感じたというエピソードは女性弁護士の中では結構聞きます。また、「うちの事務所は女性弁護士は採用しない」と公言する事務所は私が弁護士になってからも普通にありました。今でも弁護士は男女間の所得格差は大きいですしね。たとえば、企業顧問を何件も抱えて安定経営といったやり方が成功しているのは、圧倒的に男性が多い。

 最近聞いた話ですが、私よりずっと若い女性弁護士が、さらに年下の男性弁護士に「先輩はどうして弁護士になったんですか? 弁護士の奥さんになればよかったじゃないですか」と、言われたとか。男性弁護士はまずこんなこと言われないでしょうね。

佐藤 私たちは別に弁護士の奥さんになりたかったわけじゃないものね。企業顧問の話で言うと、「ボーイズクラブに入っているかどうか」は大きいんじゃないですか。地域のロータリークラブやライオンズクラブに入ると、付き合いは大変だろうけど、仕事の話も来るでしょう。

 それに、仮説ですが、中高一貫の男子進学校出身だと、卒業後、同級生が社会的地位を得ていくから、仕事上の関係もできやすいんじゃないかな。

國本 そもそも人脈に男女格差がある、と。

佐藤 男性と女性の一般的な格差が、そのまま弁護士の収入にも跳ね返ってきていると思います。女性の経営者や資産家がもっといたら、女性弁護士の収入もアップしていくんじゃないでしょうか。

太田 あと、女性だと弁護士として見られないこともありますよね。これも、私より若い女性弁護士さんに聞いた話なんですが、チームとして仕事をする案件でクライアントにご挨拶に伺ったときに名刺交換をしようとしたら、スルーされたんですって。事務局の人に間違えられたんでしょうね。

 弁護士は実力の世界だから、学歴も意識しないし、学閥も関係ない、会社組織で働くのとはまた違います。けれど、社会の慣習に阻まれないかというと、そうではない。弁護士業界だけで解決できるものではなく、もっと大きな社会全体の問題がありますね。

 

佐藤 それから、早稲田大学の石田京子先生の調査によれば既婚女性弁護士の配偶者の半数以上は法律家です。弁護士、裁判官、検事、あるいは研究者とかね。

太田 一般的に職場結婚や同業結婚は多いけれど、男性弁護士の配偶者は弁護士がトップではないですよね。

佐藤 女性弁護士の比率が20%とはいえ、女性弁護士が法律家でない男性に敬遠されるところはあると思います。私自身、「自分より収入の高い女性はちょっと」と男性に言われたことがありましたよ。

國本 『虎に翼』でも、帝大生がやってくると寅子の同級生男子が急にスンとする場面で男社会のヒエラルキーが描かれましたが、さらにそのヒエラルキーの上位に女性がいると、男性たちが「引く」ってことですよね。

「医学部における女性差別」を連想したシーン

佐藤 ドラマで司法試験の口述に久保田先輩(小林涼子)が落ちたとき、寅子たちに謝るじゃないですか。女性が一人しかいないと、女性代表になってしまうことが描かれた切ない場面でしたが、当時も口述試験では落ちるほうが少なかったようです。となると、「女性受験生はこの程度では合格させられない」といった差別的な目で見られていたのではないか、と、考えてしまう。

太田 佐藤さんが対策弁護団の中心メンバーのお一人である、「医学部入試における女性差別」を連想させますね。

佐藤 はい。私が担当した女子受験生はセンター入試を受けたんですが、自己採点では自分よりも低いはずの男性が受かって、自分は落ちていた。「マークミスしたんだろう」と言われ自分でもそうなのかと思っていたけれど、今回の事件によって、実は女性だから不利に扱われたのが不合格の理由だとわかった。

 本当は女性だから排除されてきたのに自分の力不足を悔やんできた女性たち、久保田先輩のように自分を責めてきた女性は歴史の中に数限りなくいて、死屍累々の上に今があるんですよね。

※男性キャラクターたちの成長やドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』との共通点と違い、『虎に翼』での憲法の描き方がなぜ画期的なのか、作中で思わず涙が出てしまったセリフなどについて語った全文は、『週刊文春WOMAN 2024夏号』でお読みいただけます。

おおたけいこ/弁護士。2002年弁護士登録。離婚・相続等の家事事件、セクシュアルハラスメント・性被害、各種損害賠償請求等の民事事件を主に手掛ける。

さとうみちこ/弁護士、日本弁護士連合会男女共同参画推進本部事務局長。2002年弁護士登録。2013年、香川県丸亀市に田岡・佐藤法律事務所を開所。

くにもとよりのぶ/弁護士、社会福祉法人大阪あゆみ福祉会理事長。2002年弁護士登録。2024年、社会福祉法人法務支援クニモト法律事務所を開所。

新着ニュース

話題のニュース

オリジナル記事

(旬の話題を掘り下げました)
ページの先頭へ
時事通信の商品・サービス ラインナップ